犯罪

3.83
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本棚登録 : 1670
レビュー : 352
制作 : 酒寄 進一 
koba-book2011さん 電子書籍   読み終わった 

フランス映画の名匠、ブレッソンの映画を見たような後味。
印象としてはとっても即物的でハードボイルド。
とっても悲惨な人々の、悲惨な運命を描き、全てを紡ぐ言葉は「犯罪」。
作為的なドラマチックな救いはほとんどない。

ドイツの小説です。とっても評判になっているそうですね。さもありなん。
作者は実際に弁護士さんのようですが、この短編も全て、弁護士の「私」が自分の関わった事件について淡々と語る、というスタイル。
語り部がそういうかたちで立ち位置がしっかりしているので、無理が無い印象。

弁護士にしてみれば、犯罪と犯罪にまつわる人間模様は、毎日関わる日常茶飯事ですね。
だから、ドライに淡々と語れる。の、だけど、語り部自身は貧困や悲惨や犯罪の対岸。安全圏に居る訳です。なので、小説世界としては悲惨になりすぎずに済んでいます。

そういう仕掛けの上に、描かれる一つ一つの話が、まあ、なんというか「ザ・人間模様」と言いますか。
どれもそれなりに辛い人生なんですが、語り口の旨さで、地に足着いて読めます。

そしてそこには、欧州、ドイツに現在横たわっている、移民問題が浮かび上がりつつ。
日本でも変わらない格差や貧困や不寛容といった風景もあれば、
奇妙な運命や奇跡のような希望があったりします。

語り口の上手さが、なんだろう。なんだかドストエフスキーな、とでもいうべきか。
微妙に乾ききったユーモア、翻訳もの独特の言い回しも上手くこなれていて。
衝動買いにしては、衝撃的に面白かった一冊。






以下、個人的な備忘録。


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●フェーナー氏
長年実直な開業医だった男。悪妻に悩まされ続けて、生真面目であるがゆえに、老いてからある日、妻を殺害。自首した。

●タナタ氏の茶碗
不良の少年たちが、大富豪の家に窃盗に入る。有名な茶碗を価値を知らず盗んだ。
だがその大富豪の手回しなのか、窃盗関係者が次々に怪死。
恐れた少年たちは盗品を返品して、なんとか事なきを得る。

●チェロ
厳格で粗野な大富豪の家で育った、姉と弟。
家から出て、常にふたりで暮らしたが、弟が大事故で意識理性を含めて障害者になってしまう。
性欲剥き出しで姉に襲い掛かる弟に手を焼く姉。
姉は弟を殺害し、自首した。

●ハリネズミ
移民の一家。家族は皆、犯罪者。
そこで生まれ育った末っ子の男子は、異色の優等生。
家族に知らせずに別に家を持って、ITも駆使して、もう一つの人生を送る。
彼の「もう一つの人生」は、家族のだれも知らない。
兄の一人が犯した犯罪の裁判で、機知を発揮して家族を救う。

●幸運
戦災に巻き込まれた若い女性。輪姦され、全てを失い、国を捨て、ドイツに。
生きていくために売春をしていた。
そして路上で出会った若者と同棲を始める。
しかし、ホテルで客が突然死。
誤解と誤解が重なって罪に問われることになる。

●サマータイム
中東からの難民の若者。犯罪に手を染めて生きている。
そこそこ羽振りが良くなり、愛し合う恋人も出来た。
だが、たちの悪い借金にはまり、命の危機に。
恋人の女性は、仕方なく大物実業家の愛人になる。嫉妬深い彼には隠している。
密会の後、その女性が死体で発見される。
家族も地位もある実業家が殺人罪に問われるが…。

●正当防衛
街のチンピラを、正当防衛で瞬時に殺害した、身元不明の男性。
どうやっても正当防衛で無罪になってしまい、放免。
どうやら、「プロ」だったらしい。

●緑
田舎。資産家の名家の息子が、ある種の異常になってしまう。
羊の目をくりだしたり、羊を殺したり。
他の人に見えない、「色」「数字」が見えると…。
知り合いの若い女性が失踪し、彼が殺したのかと疑われ…

●棘
博物館の守衛。
会社のミスで、同じ博物館で何十年も勤務することに。
博物館を隅から隅まで熟知した彼は、やがてとある銅像に惚れこんでしまう。
そして退職の間際に、その像を叩き壊してしまう。

●愛情
恐ろしい一篇。人肉を食べる、という変質者の話。
恋人と過ごしていた穏やかな日に、彼女に切りつけてしまった若者。
どうやら、「愛しくて、食べたくなった」らしい…。

●エチオピアの男
「残酷なメルヘンそのもの」な、不幸な生い立ちを歩んだ孤児の男。
軽犯罪の末に海外に脱出し、アフリカで死にかけたところを、エチオピアのとある集落の人々に助けられる。
その集落で、村の人の為に働き出した男は、そこで家族を作り幸せになる。
だが、帰国したドイツで罪に問われ、投獄され、最後にアフリカに戻るために強盗を働く…。
珍しく最後がハッピーエンド。オオトリにふさわしい、グっと来る一篇。

レビュー投稿日
2015年12月16日
読了日
2015年12月6日
本棚登録日
2015年12月16日
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