▼収録作品は以下。

霧の朝
妙義の団右衛門
おかね新五郎
逃げた妻
雪の果て
引き込み女

▼「霧の朝」 
平蔵馴染みの御用聞き(桶屋職人)夫婦がおり、男の子がいる。
実はこの男の子は、生まれてすぐにとある瓦焼き職人の夫婦が手放したもの。
桶屋夫婦は我が子として大事に育てている。
瓦焼き夫婦は、夫が酒に溺ればくちに溺れ身を持ち崩し、女房が泣く泣く赤ん坊を手放した。

ここまでが前段で、6歳くらいか?に育った男の子が、誘拐される。
これはお上の用事をしている桶屋への恨み。
このことを、ひょんなことから元瓦焼き夫婦、つまり実の親も知ることになる。

そんな前後の描写で、引用すると以下があります。

##

おろくが泣き崩れた。
隣家の女房が裏口から、
「おろくさん、どうしたんだよ」
叫びながら、駆け込んで来た。
仙台堀沿いの道に、赤蜻蛉が群れ飛んでいた。
血相を変えた富蔵が、親分の政七の家に走り向かっている。

##

<仙台掘沿いの道に、赤蜻蛉が群れ飛んでいた>
この一文の置き方に、「うわっ」と胸打たれました。
なんかこう、4回転半ジャンプから静かに着氷した感じというか・・・・。

2025年4月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月23日]
カテゴリ 電子書籍

▼自分自身も「せっかち」なので、「せっかち」についてのお話かなと思って読んでみました。

そうしたら、「せっかち」の気質の話でしたが、その向こうにある感じさせるものは、「大人になるコト」とか「人生という時間」とか「時の過ぎゆく儚さよ」みたいなことでした。

▼すぐれた絵本にしかありえない、「3分で読めてぐっときちゃって泣けちゃう本」ですね。とても素晴らしいと思いました。

2025年4月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月22日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼それこそ十代からの長い歳月で、丸谷才一さんの「一般向けの小説本」は多分あらかた読んでしまいました。相手がお亡くなりになっているから、そりゃいつかそういうことになります。
 恐らくこの本が最後の一冊だったのでは・・・・そういう感慨がありました(笑)。


▼収録は以下

・横しぐれ
・だらだら坂
・中年
・初旅

▼「横しぐれ」
執筆当時の現代劇で、私小説風、ですね。
国文学者の中年男が主人公で、
<自分の父が戦前に道後で飲みかわした坊主というのは、山頭火ではなかろうか>
というミステリーに挑みます。
これはもう、語り口で載せていく不思議な日常ミステリー。
圧巻の筆力です。ただまあ、好みによっては面白くないでしょうが。
北村薫さんや米澤穂信さんに繋がる水脈はここにあるんぢゃないかと思いました。

▼「だらだら坂」
執筆当時の現代劇かと。
サラリーマンの初老の男性が回想する。
戦後直後の時代に、普通に堅気の学生が、ひょんなことから道元坂あたりで不良にからまれた。
で、相手をぶちのめした。
相手は死んだかもしれない。確かめていないけれど。

・・・・というだけの話をこれまた面白く読ませます。
ぎらっとした暴力の匂いがします。

▼「中年」
新聞記者、それも映画エンタメ系の記者。中年の男性。
この主人公が、若手俳優の恋愛結婚相談に乗ったりしている。
そんな一見コミカルな日常の中の、欺瞞や、ミソジニーや、嘘みたいなものを読ませます。

▼「初旅」
これはあまり印象に残らなかった・・・・
たしか何か不条理系の・・・
タイムスリップか何かの現象に、盛岡に人探しに来た少年の話がからんで・・・
そして何か曖昧に終わったような。。。

2025年4月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月16日]
カテゴリ 電子書籍

▼上巻の感想に書いた通り、もうとにかくオモシロかったです。

▼下巻も疾風怒濤。連合国軍パリ入城のくだりは、講談を聞いてるかのようなカタルシス、高揚感があります。

▼下巻を読んで思ったのは、「ドゴールってすごかったんだなあ。もっと知りたいなあ」でした。まあ、言い方を変えると、「ドゴールのことは相当好意的に英雄的に書いているなあ」とも言えます。

▼それにしても、「パリ」という街の持っているオーラみたいなものというか、あるいは、余所者がパリに抱くイメージというか、そういうものの根っこには、この「ヒットラーとパリ」というあまりにもよくできた物語があるんだろうなあ、と思いました。

2025年4月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月12日]
カテゴリ 図書館のほん

▼収録作品は以下。

俄か雨
馴馬の三蔵
蛇苺
一寸の虫
おれの弟
草雲雀

▼「馴馬の三蔵」が印象深い。
密偵たちが、「過去にお世話になった良き盗賊」と「平蔵」との間で葛藤するシリーズはいくつもあり、割と佳作が多い気がします。

▼密偵が「殉職」する回はどれもぐっときますね。
これはさしずめ、「太陽にほえろ」とどっちがどっちみたいな影響下だったのでは。時代的にも。

2025年4月8日

読書状況 読み終わった [2025年3月10日]
カテゴリ 電子書籍

▼2025年春現在既刊の、1~3巻をまとめた感想です。

▼全50巻を数える大河青春かるたマンガ「ちはやふる」の続編です。「ちはやふる」を、当時9歳だった子供が大変に夢中になったので、付き合ってこちらも完読して、結果として大変に大人も楽しめた名作漫画だったと思いました。その続編。10歳になった子供も即魅入られて、親も付き合って読みました。

▼続編と言っても趣向があって、「ドカベン」とは違い、主人公は変ります。「ちはやふる」と同じ高校の同じかるた部が舞台で、「ちはやふる」のメイン登場人物たちが卒業したあとの時制。新1年生たちが主人公で、「ちはやふる」の登場人物たちは「伝説の創部メンバーたち、卒業生たち」という位置づけ。

▼「ちはやふる」と同じく、競技かるたに青春を賭ける高校生たちの話なんですが、味わいは微妙に違います。「ちはやふる」は直球なかるたマンガ(他に例は無いでしょうが)として出発して、長寿連載になったが故に、周囲の大人たちの人生模様も徐々に取り込んで描かれていました。ただ、基本は、「何かに熱中できる素晴らしさ」と「恋愛物語」がマンガらしい素敵なフィクションドラマで描かれたものだったと思います。

▼「きみがため」は、はじめからもうちょっと視座が広い感じです。「ちはやふる」の、「何かに熱中できる素晴らしさ」と「恋愛物語」は引き継ぎつつ、初めから「若者なりのエゴ」と、それに対立する「愛するたれかのための自己犠牲や献身」という葛藤軸が作られています。

▼主人公のひとりと思しき男子高校生は、かるたに熱中して、かるたの腕は積み上げたものがあるけれど、母が急逝して父と妹と三人暮らし。多忙なサラリーマン(官僚?)である父の余波で、「小1の妹のために自己犠牲」を強いられる。ところがそんなことをしていては「かるたで勝つ」という青春の目標が達成できない。でもぢゃあ、母の無い小1の子供を放置するのか?・・・・。

▼かてて加えて、

・高校生と言ってもまだまだ保護者の下にいるのであり、大人の理解と愛情が必要である。

という<ジュブナイルな生き物を社会がどう見守っていけるのか?>という、効率自己責任社会では尽きせぬ主題も散りばめられていて、さらには

・男女のジェンダー格差、お互いがありのままで尊重されるべきフェミニズム的世界観

みたいなものも「ちはやふる」より明確に輪郭があります。

▼そんなことに感心するのですが、、、、もちろんそれらは「エンタメとして面白いから」のオマケみたいなものでして。物語の進行の折々に、「脇役」として「ちはやふる50冊」を彩った人物たち(もちろん主役も)投入してくるぜいたくさに、「ちはやふる」愛読者としては、単純にしびれます。

▼「ちはやふる」が前提としてあった上で、「ちはやふる」より面白いのでは?という感触。子供のように、子供と共に、続巻が世に出るのをココロマチにしようと思います。

2025年3月9日

読書状況 読み終わった [2025年3月3日]
カテゴリ 漫画:お楽しみ

▼高名なルポルタージュベストセラー。第2次世界大戦の、ナチス黄昏の一幕、「1944年8月の、パリ解放」に至る1週間程度?を、ドイツ側、連合国軍側(ドゴールなど、陣借り参戦しているフランス軍や、アイゼンハワーたち)、そしてパリ市民たち(共産党系レジスタンス、共和主義系レジスタンス、一般市民、対独協力者のパリ市民など)という、目がくらむほどの人々に「当時何があったのか」を取材しまくって書かれたもの。

パリ解放から20年後くらいに書かれたもののようです。まだ多くが生きていたので、多くから生で聞き取りをしている。

▼もともと個人的に西洋史が得意では無かったので、過去10年?くらい意識的に「オモシロい西洋史の読み物」を読んできたんですが、去年くらいから、「ひとつの到達点として、パリは燃えているか?を、楽しく読もう」と思っていました。
 なんの〆切も責任も無い、個人的なプロジェクトです。こういうのは自分としては、無上の読書の愉しみです。
「キャパ評伝」 「誰がために鐘は鳴る」 「ヒトラー評伝」 などなどをこの数年読んできた甲斐がありました(笑)。

▼上巻は、

<ノルマンディー上陸作戦が終わっている。ナチスは敗色濃厚である。7月にヒトラー暗殺未遂もあった。ナチス内でも多くが内心、こりゃだめだ、と思っているし、ヒトラーを見放している。でもそれを見せると処刑されてしまう。そういう状況。
 まだパリはヒトラーの、ナチスの支配下にいる。だが、全体としては連合国軍が軍事的には優勢なので、共産党系、共和主義系などのレジスタンスたちが、パリ解放後の新しいフランスの舵取りをめぐってバチバチとうごめいている>

という状態から始まります。

主人公は何百人と出てきます。でもメインのひとりは、コルティッツ将軍。つまり、最終的に「パリを燃やさなかった」ナチスの将軍です。
最後にはパリは燃えなかったことを読者は知っているのだけど、「パリを渡すなら燃やせ」とヒトラー直々に命令された、コルティッツ将軍とともにパリへ入っていくような趣向。話の段取りの結末ではない。どうしてそうなったのか?どういう過程でそうなったのか?ということでグイグイと引き込まれました。

▼そして、結論パリはそれなりの市街戦の結果、連合国軍が討ち入って来て、最後は幕となる。その歴史の結果は知っている。完全他力ではなく、蟷螂の斧と言えど、素手に近いレジスタンスが解放の糸口を紡いだことが、結果的に今にいたる「パリと、パリ市民たち」のプライドであり文化になっていますね。

 それは英雄譚だけど、戦争は戦争。殺し合いです。

 ナチスによる反抗者弾圧(つまり、殺害)という実相も描きつつ、レジスタンスに殺されるドイツ兵ひとりひとりも、みな家族がいて死にたくなかった人間でもある。そんな視点に書き手の背骨の強靭さを感じます。スバラシイ。

▼眼が眩むほどの多様な視点で、わずか数日間の出来事が、コレデモカとドラマチックに、エンタメ横溢に、そして重さとユーモアも交えて語られます。読みやすいとは言いませんが、全く飽きませんでした。スバラシイ。

▼1990年代か、「映像の世紀」という傑作豪華ドキュメンタリーがありましたが、そのあまりにも有名な加古隆さんによる主題曲の曲名が「パリは燃えているか」でした。脳内ではあの曲が鳴っています(笑)。

▼結果、燃えなかった。そして無差別大量虐殺のようなことは起こらなかった。そこにコルティッツさんをはじめとして、「にんげんの底力」みたいな輝きを感じます。感じますが一方で、スターリングラードだったりモスクワだったり、沖縄だったりヒロシマ・ナガサキなどを、「燃やしてしまった」のも、おなじ「にんげん」なんだよな。そういう葛藤も内包して書かれている作品。下巻はこれからですが、大満足の予感しかありませ...

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2025年3月9日

読書状況 読み終わった [2025年3月2日]
カテゴリ 図書館のほん

▼つまりは司馬遼太郎さん版の「島原の乱」。面白かったです。

▼1980年だそうで、書かれたのはもう40年以上前。なんですがさらに昔のことに思いを馳せる旅であり本なので、古びないですね。

▼島原、は長崎県の南部。天草の諸島、は熊本県の西部。島原の乱は両地域で発生したもの。なぜ起こったのかというと、切支丹の暴発というより、「江戸幕府経済体制が安定してくるなかで、貨幣経済の成長と、支配者層が米本位経済で動いている歪みが、厳しすぎる税制を長く続けた地域で噴出した」ということですね。

▼背景には、徳川体制になって、鎖国へと向かう影響が感じられます。要は宗教がどうこうというよりも、当時のスペイン・ポルトガルに代表される中世的で凶暴な簒奪植民地支配の危険性を感じていたから、ということですね。

▼それにしても、2025年現在の世界も無関係ではありませんが、ひとたび「正義」をめぐる暴力闘争になったときに、どれだけ権力側が残忍になれるのかというのが、通底音のように広がります。ため息にあふれるような一冊でした。

2025年3月9日

読書状況 読み終わった [2025年2月26日]
カテゴリ 電子書籍

▼何かの本で、おススメになっているのを覚えていて、読んでみました。「東大生」に付加価値を付けたタイトルは今一つ品が無いなあとは思いますが、好きな本でした。

▼ずっといわゆる文系・文科系の割り切りで過ごしてきてしまったので、大人になってから、「経済の仕組み」に興味が出てきても、何を読んでいいか分からず。たまにそれらしい本を手に取っても、正直全然腑に落ちない経験ばかりでした。この一冊は、タイトルほど「面白いほどわかった!」でも無く、それなりに難しかったですが(笑)、それでもだいぶ、腹に落ちました。スバラシイ。

▼好感を持ったのは。結局、経済の仕組みをなんのために理解するか。あるいは経済の複雑な仕組みはなんのためにあり、また何のためにあるべきか。そういう、言ってみれば哲学的なというか、モラルや理想論の領域に後半は入りますが、それが良かったです。

▼結局、たれでも濡れ手に粟で不労所得(に近いもの)があれば嬉しい。一握りの「楽に稼げる階層」に近づきたい。そういう気持ちは本能かと思いますが、そういうことばかり全員がやっていたら、ひとりひとりが、幸せに生きるために必要な衣食住のなどのインフラやサービスを「生産」する人が減っていく。そうすると、結局最後は、「楽に稼げる階層」の人たちの中でも一部の人は「安全とか安心とか満足感とか」そういうものを削ぎ落されて行ってしまう。結局は、「楽に設ける近道無し」という気持ちで働いた分の収入で「幸せだと感じる暮らし」を営めることがいちばんなんだなあ。そういう、ぐるりと回ってありきたりな場所に戻ってくる。戻ってくるのだけど、以前よりも確信が持てる。そういう意味で素敵な読書でした。

2025年3月9日

読書状況 読み終わった [2025年2月24日]
カテゴリ 図書館のほん

▼「冬の本」「本屋図鑑」以来の、夏葉社さんのファンです。島田潤一郎さんのエッセイも読んだので、読んでみたかった一冊。

▼要は英語の詩を翻訳してイラストを付けただけの本なのですが、良いです。親しい人(やペット)と死去したあとの心の癒しの大事さが、最近「グリーフケア」というコトバも出来て地位を確立した感がありますが、その代表格のような一般書でしょう。

▼歳を取ると「自分もいつか、親しいたれかよりも先に死ぬんだよな」という至極当たり前のことが腹の中で重さを増してきます。そういう自分の気持ちの癒しにもなりますね。

▼毎度、夏葉社さんの本は、とにかく「書籍」という物体としてココチヨイものばかりですね。それも素敵。

2025年3月9日

読書状況 読み終わった [2025年2月23日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼全体にオモシロかったです。当方が浅学菲才な昭和生まれのオジサンなので、上野さんが渡したかったものを全部受け取れているかは分かりませんが。後日の自分のために記憶に残っていることだけまとめると。

▼「ミソジニー」というのが「女性嫌い、女性蔑視」みたいな観念のことらしいのですが、これがキーワード。

▼日本だけではないでしょうが、日本の実社会をベースに、どれだけ

「女性は社会的に、能力的に、男性よりも劣るのである」
(あるいは、そうであって欲しい、そうあるべきだ)

という「理屈抜きの決めつけ」が世の中の色んなところに浸透しているか、それがどれだけ理不尽だし、非効率だし、残酷だし、身勝手であるか。
というようなことを多例を用いて語られる一冊。

▼月刊誌?か何かの連載をまとめたものだそうで、出版当時の時事問題や事件や世相に立脚しているので、ちょっと懐かしかったりもしますが、全般に気になるほどではありません。 

▼それらミソジニーに侵される、というか受け入れてしまっている(というか受け入れざるを得ない)のが、男性だけぢゃないよ、という。

▼原則、日本の今の社会の基礎を作った(その基礎が今、かなりガタガタに、良くも悪くもなっているのですが)昭和の高度成長期の家族や男女役割モデルによってつくられている。

・労働市場への参加の制限

・男性よりも学歴が下位で、大まか年齢も下の専業主婦

・働いても、「男湯に乱入した女性」的な居心地の悪さと扱い

・更には「男性的な社会成功」と「昔ながらの男性受けする、つまりミソジニーに基づいた成功」の両方を求められる

というようなことなんですが、個人的な理解では「フェミニズム」という考え方は、これらのコトバの「女性」を「世界の中の日本人、アジア人」に置換したり、「身体障碍者」に置換したり、「低所得者」に置換したり、「地方出身者」に置換したり、もっと平たく言うと「運動音痴」とか、「学歴的劣等生」とか、兎にも角にもありとあらゆる「社会的な”ガチャ”の弱者」に置き換えて考えても成立するところがキモなんだと思います。


▼そういう意味では過去事例、前例、つまりは歴史特に現代史と言われるものを、どのように「認知」して、その「認知」に基づいて周囲の言動を「判断」して、自分の言動をどう「操作」するのかということに尽きるんぢゃ無いかなと思います。だからコトは、政治家ぢゃなくてもリーダーぢゃなくても、小さな自分個人が、決して多くない身近な人たちとどう接するかということになる。その何億という事例と人間の積み重ねの向こうにしか、自分の、そして子供たちの未来はないんだろうなあと思いました。
 そうした積み重ねの結果が、自分個人の歴史の出発地点だったわけだから。

 そうした「認知」の視点というかアイディアを色々と提供するというのが、「学者さん」という人々の(恐らくは特段に社会学者とか哲学者とか歴史学者に限らず)本来の役割なんだろうなあ。もっと言うと「本」を出すということも含めて「メディア」というものの役割なんだろうなあと思いました。良き読書でした。


▼ただ、事例の中で、いわゆる少女性愛趣味などの具体例に踏み込んだ章は、ちょっと読んでてココロが疲れるというか、しんどかったです。昼飯食べながらちょっと読むような愉しみ方の本ではありません。
 あと、連載をまとめたもので、かつ恐らく一般誌ではなかったようなので、まとめて本にすると若干お手付きがあったり展開が単調だったりはしました。まあそれはしょうがないですね。それを超えてなおインパクトのある素敵な読書でした。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年2月9日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼15巻も特別長編でしたが、そちらは正直に言ってイマイチでした。17巻の「鬼火」は面白かったです。普通に長編ミステリとして組み立てができていますね。

▼要は2/3くらいまでは、全貌が鬼平にも読者にも分からない。3/4までと言って良いかな…。その「分からなさ」を愉しみます。そのネタ自体は短編でも済むような話ですが、語り口がレギュラーを上手く使って広がりがあって、謎の展開も段取りが深い、という印象です。

以下、ネタバレあります







▼鍵を握るのは、「権兵衛酒屋」という居酒屋の不愛想な老人夫婦。これが要は、

「落剝したかつての御家人」で、

「落剝した理由はお家騒動で、決して根っからの悪人ではなく」

「でも浮世の流れで、きちんとした?盗賊まで身を落として」

「今は引退しているが一族の対面のために素性は明かしていない」

「そこに、性の悪い盗賊たちの手が伸びる」

という仕掛けでいわゆる「人生の哀歓」ってやつが濃厚です。
そのあたりは池波さんが敬愛しているはずのメグレ警視シリーズを彷彿とさせます。


▼その「性の悪い盗賊」を退治して終わりになるんですが、その悪者たちが毎度おなじみの「不良旗本」や「不良奥医師」などの浮世の権威と持ちつ持たれつだったりして、なかなか一筋縄に組織の全貌と動機が分からない、という仕組みでした。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年2月9日]

▼マーロウもののなかでも、「とにかく美女にもてまくる」要素満載ですね。ただ、チャンドラーさんが素敵なのは、ただたんにモテるというよりは、

・好感を持たれるけれど。

・基本、利用されまくり、騙されまくり、場合によっては殺されかかる。

・なんだけど、マーロウさんはぶつぶつ言いながらも大まか受け入れていく。

・それでもって、男女のカラダのコトには実はまったくもって及びません。キスがせいぜい。というか、<会話とキス>にこそロマンがある(笑)。



▼原りょうさんを再読したいなと思ったことから、
<マーロウ全部順番に再読して、原りょうさんも順番に再読しようプロジェクト>
が、発動。道半ばです。愉しい。
オモシロかった。相変わらず。


▼あらすじ、と言うことで言うと、翻訳の村上春樹さんも言っているとおり、かなり複雑で分かりにくい。その上、よーく読んでいくと、何か所か破綻している(笑)。
なので、「どういう物語だったのか」ということの、特にミステリの謎解き説得性みたいなものは、チャンドラーの長編はほぼどうでもいいんですが(笑)。

志ん生の落語みたいなもので、多少間違おうがどうだろうが、「節回し」とか「声」とか「言い方」が愉しい。


でも一応備忘しておくと。




・田舎町から田舎臭い垢ぬけない美女が「兄がこの町で行方不明。探してくれ」と依頼。

・探しているうちに次々に死体に遭遇。どうやら組織暴力と薬物からみの事件っぽい。

・そこにハリウッドの芸能界、美人女優も絡んでくる。

~~~以下、キモのネタバレ~~~






●確か、依頼人の女性の<姉>が実は美人女優。隠しているけれど。

●依頼の<兄>は芸能界=暴力団的深みに落剝して、殺されていた。

●そもそも依頼人の<妹=リトル・シスター>も、けっこう悪者で、金のためだったし、なんならほぼ兄を見殺しというか殺しの片棒に近い感じだった。

●マーロウは複雑な真相を最後に暴いて、確か、女優のプライバシーを守り抜いた気がする。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年2月3日]
カテゴリ 本:再読

▼薦める方がいて読んでみました。80年代ですかね。(男性本位的な)週刊誌全盛時代の娯楽時代劇。かつ、作者の方は長くテレビ脚本で、時代劇ドラマなどで、大活躍されてきたキャリアのようです。というわけで、しっかりした時代劇的な足腰と、疾走するアクションとエロスのオンパレードな男性向けエンタメ小説でした(笑)。

▼以下ネタバレ。備忘録。






▼肝は、作者の隆慶一郎さんが恐らくお好きな題材である、「徳川家康は関ケ原の前に刺客に殺害された。それ以降は影武者であった」というアイディアなんです。

もうとにかく、男性的ご都合エンタメが、たい焼きで言えば頭から尻尾までぎっちりと詰まった一品。あまりのマッチョイムズにしばし呆然とするほど。
こちらも男性なので、愉しめる部分も大いにあるんですが、あまりのことにさすがにドン引きすることもしばしでした…。

でも、山田風太郎さんの一部小説もこんな感じだったし、司馬遼太郎さんの初期エンタメ系もまあ大同小異なんで、「時代」だなあ、というのが正しい考え方な気もします。



1 江戸時代初期。天皇のご落胤、おとし子(赤ちゃん)が。

2 徳川幕府(2代将軍秀忠の意志)の刺客に殺されかかったが

3 偶然通りがかった剣豪・宮本武蔵に助けられ

4 出生の秘密を知らされず、武蔵と肥後(熊本県)の山中で成長、青年になる。ついでに無双の剣の達人にもなっている。

5 武蔵が死んだので、遺言に基づいて江戸・新吉原に行く。(いわゆる後任売春街の吉原のこと)

6 道中から、なんだか分からないけど「御免状はどこだ」とかっていう謎の忍者たち(柳生の方々)に襲われまくって、ことごとく撃退する。

7 吉原で自らを名乗ると、吉原の経営者たち重鎮がVIP扱いしてくれる。

8 吉原には謎の影の軍団みたいな忍者的な自衛団があって、強い。

9 それでもって柳生の者たちと暗闘を繰り広げていて、主人公も巻き込まれるが、連戦連勝する。

10 主人公は、花魁たちお姉さんにことごとく惚れられて、なんだかんだそのうちのAさんBさんとは男女の仲になる。

11 そのうちに謎の美女が熊野あたりから現れて、色々秘密を教えようと主人公と男女のコトに及ぶ。なんでだか分からないけれど、コトの最中に主人公の意識は(導かれ)タイムスリップして、以下のことを「体験」して知る。
(こうやって書いていると物凄い小説かのように見えるかもですが、実際に物凄い小説でした。ある意味、あっぱれです)
 
 ※家康は影武者だった

 ※その影武者はジプシー的な放浪民の一族だった

 ※その影武者が自分の元仲間たちに「吉原で後任売春街を作って自治権持っていいよ。俺も同類だしな」という「御免状」を書き残した。
 (その文章を世に出されると幕府は困っちゃうから吉原に手を出せない。けれども裏で刺客を送っている。という設定になる)

 ※ついでに主人公の出自も。


12 そんなことと別に、遊女Bが柳生につかまり、むごたらしく惨殺される。

13 怒りのランボーと化した主人公が、柳生をほぼ皆殺しに近いくらいやっつける。

14 主人公は「吉原の経営者たちと手を取り合ってがんばっていこうかな」という決意で、京都へと旅立つ。おしまい。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年2月1日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼全体に素敵な小説ですが、西岡さんのエピソードが好きです。きっとそういう人が多いでしょう(分かりませんが)。

▼アニメをまず見てしまい。そのときに、この本は話題書ベストセラーだったので「あっ、これ、読んだつもりになってたけれど、読んでなかった」ということに気づいて、手に取りました。

(逆のこともたまにあります。読んでないつもりで買ったり借りたりして、読み始めて途中で「おおっ・・・これ、読んだことある・・・」)

▼とある大手出版社の辞書編集部。辞書を作る人々のお話。

大まか、以下の6つのお話というか、要素でできている小説です。
個人的にはこの中の「3」と「6」が胸熱でぐっと来ました。
ただ、他の要素も読みやすくオモシロく書けていて、確かにこれは秀逸な小説だなと脱帽です。

全体にユーモア小説?というくらいのエンタメ精神でも描かれています。辞書を作る話、という題材に溺れないところが良いですね。


▼1:馬締(マジメ)さんという若手男性社員が辞書編集部にやってきた

2:マジメさんが下宿で一つ屋根の下にいる、女性料理人と恋愛して結ばれる

3:マジメさんの同僚の西岡さんが、マジメさんの変人ぶり&辞書編集者としての天賦の才に複雑な気持ちを持ちながらも友情を結ぶ。が、異動で去る。が、気持ちはずっと応援している。

4:十年以上経過して。岸辺さんという若い女性が編集部に異動でやってきた。初めは戸惑うがやがて仕事にやりがいを。

5:岸辺さんと、辞書の「紙」を担う製紙会社の熱心な男性若手社員が、仕事を通して良い感じになる。

6:うっかりミスのチェックなど紆余曲折を経て無事に完成&好評を迎えるが、ずっと一緒に作って来た国語学者さんは直前に病死してしまう。

▼そういえば小説でもアニメでも、「西岡さん」が半同棲している女性がいる。その女性とは昔からの長い腐れ縁みたいな関係。気楽に付き合える。そして大まか幸せに結婚することになる。という流れがあるのですが、その「気楽に付き合える腐れ縁」的な要素のなかで、けっこう相手の女性に失礼なことを言ったりするんですね。それは、「気楽に、気を遣わず済む相手」ということの表現であることは明白。なんですけれども、「おいおいそりゃ失礼だろう・・・というかそんな言い方したくなる相手と付き合うってカッコよくないなあ」と思いました。細部は忘れてしまいましたが。。。
 無論些事で、全体の素敵さは変りませんが。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年1月25日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼子供の頃に<中村吉右衛門×フジテレビ×京都松竹バージョン>の時代劇を、さほど熱心では無くても見ていたので、そのイメージがあって読みやすいという要素もきっと欠かせないでしょう。
 自分の中では鬼平さんは吉右衛門さんだし、木村忠吾さんは尾美としのりさんだし、五郎蔵は綿引勝彦さんだし、おまさは梶芽衣子さん。このあたりは鉄板になってしまっています。塗り替えられない(笑)。そういう方も、多いはずです。

▼文庫全24巻。とうとう16まで来ました。
ルパン三世シリーズのアニメみたいなもので、1話1話が厳密に言うと「オモシロかったのか?」と詰め寄られると実はそうでもない。んだけど、レギュラーキャラの活躍を安心して楽しめるというぬるま湯な読書の愉しみ。
 

▼収録内容

影法師 網虫のお吉 白根の万左衛門
火付け船頭 見張りの糸 霜夜

▼確かいくつかの話を跨いで、部下の同心・木村忠吾の結婚&新婚話があり、長寿シリーズならではの「サブキャラの成長」が愉しい。

▼「見張りの糸」は盗賊を監視する家のものが盗賊だったという、ありそうで無かった設定。これまた長寿シリーズならではの番外編的愉しさ。

▼「霜夜」。義母との葛藤で悩みぬいた若き日の平蔵を助けてくれた後輩が、今や落剝して再会するが…。平蔵の「過去剣友シリーズ」で、又四郎というゲストキャラが良く描けていて面白かったです。

2025年2月16日

読書状況 読み終わった [2025年1月23日]

▼久しぶりに吉村昭さんを読みました。相変わらず、地味で硬派でコリコリしていて、エンタメにイキきらない独特の語り口が一種オモシロイ。森鴎外を読んでいる気分にちょっとなります。

▼確か、江戸時代の(明治大正もあった)、「かたきうち」の実話を歴史小説として描いていらっしゃる。そこではエンタメ性やヒロイズムは徹底的に排除されています。実にハードボイルド。ひとをころす、というしんどい肉体作業。長年かけて敵討ちをする精神的疲弊感。などなどがビシビシと容赦なく描かれて。それでいて、ちゃんと小説になっている。面白く読ませる。独特の背筋の伸びる持ち味、悪くないです。

2025年2月15日

読書状況 読み終わった [2025年1月9日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼主人公は若い女性で、小説家で、デビューした後、なかなか売れるものが書けず。というかそもそも書けなくなっているような。でも小説家ではあり続けたい。苦闘中。

▼自分の祖父が(うーん 曾祖父だったかな?)が、ろうあ者だった。そして戦前に四国で理髪店をやっていた。戦中戦後に苦労して家族と過ごして、子供を育てた。
それを知って、「その話を小説にしよう」と思う。

▼そして主人公は親とか親戚とか色んな人に話を聞いて回る。

▼A
戦前戦中の、ろうあ者の若者が、苦労して理髪店を営み、結婚して生きていく苦闘の歴史が綴られる。これはそれなりにオモシロかったです。

▼B
パラレルで、「それらを取材する若い女性作家」が描かれる。いろいろ発見して驚いたり、そもそも戦中戦後の近現代史的なことを知悉しているわけでもないので。そしてそれらを通して「自分探し」が進んでいく。ろうあ者の世界を知っていく。
 こっちのくだりは、正直に言うと面白くなかったです。描くほどのものでもないのではないか・・・という感想。そのあたりの自意識の強い人の自分語りSNSとそんなに変わらないのでは・・・。

▼Aのほうは、戦前のろうあ者の暮らし方、というだけで知らぬ世界だし、当然ながら大変な苦労や差別の中で人生を切り開いていく物語は、興味深かったです。ろうあ者ができる仕事、として理髪業が教えられていたんだ、ということから、「へえええ」が満載でした。

2025年2月15日

読書状況 読み終わった [2025年1月8日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼「小説家志望の若い女性がSNSなどに書いた自分史的文章」が、著名人に激賞され、イッキにブレイクして本になった、ということだそうです。

▼従って、この本は自分史晒しエッセイです。多少ゆるいところもありましたが、それなりにオモシロく読み切りました、基本恐らく若い女性向けでしょうから、当方が大感動しないのはむべなるかなですが。

▼主人公というかつまりは作者の伊藤さんは、(創作をしていない限りは)恐らく関東圏のご出身で、お父様がアフリカ系の方で、イスラム教徒で、肌の色で言うと黒人さんである。お母様は日本人である。つまりはご両親が国際結婚で、いわゆる「ハーフ」。そして伊藤さん自身が見た目は「黒人さん」。なんだけれど、日本生まれ日本育ち日本国籍、日本語しかしゃべれない。
 ありていにいうと、上記の特殊性と、そのお父様との葛藤がいちばんの「売り」なんですね。

▼そして、当然ながらかなり赤裸々に晒していらっしゃる(そうぢゃないと話題にならないでしょうね)。お父様はかなりの激情家のようで、かつイスラムの戒律に忠実なようで、愛が深い一方で、カッとなると暴力をふるう人だった。そして伊藤さんが思春期頃?に離婚した。伊藤さんは母親と暮らすことになった。以降はお父様は、どうやら近所で暮らしているようだけど、絶縁状態のよう。

▼伊藤さんは見た目が黒人さんですから、日本人の子供の社会ではいろいろ辛い思いもされたよう。それから、お父様もお母様も、「お金持ち」でもなかったようで。そして伊藤さんは大学生くらいの頃には「作家になりたい」と思う。そして恐らく外見もその頃にはエキゾチックな魅力?もあったようで、ご本人曰く「ほんのちょこっとだけモデルの仕事」もされたそう。大学を卒業するが、会社員になるのではなく、作家になりたくて、水商売など仕事転々しながら過ごす。そしてSNS(”note”というのかしらん)で自分晒しエッセイを書く。それがあるとき、お父様との赤裸々なあれやこれやを書いたものが、著名人に激賞され、イッキにネットで大ブームになる。出版社からホンにしないかと声がかかる。

▼ということだったようで、正直、本全体の半分くらいは「自分史エッセイの本を出せる!そのためにもうちょっとネタが要る!」という需要がありけりで書かれたもので、女友達との珍道中なプチ旅行記とか。そのあたりは、正直言って面白くはありません。

まあ・・・、若い人が「ワタシって、私たちって、ほらこんなにちょっとユニークなんですよ自慢」の延長に過ぎないような。

▼ただ、それらも含めて読ませる文章力は、これは上質なんだろうなあとは思いました。

2025年2月15日

読書状況 読み終わった [2025年1月8日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼残り少ない、丸谷才一さんの未読小説。サスガ、という出来でした。ズシンと来ました。

▼舞台は1960年代(書かれた同時代なのかな)。戦後20年くらいかと。主人公の男性は40代。都内の、恐らくとある私立大学で事務職員をしている。課長補佐である。次期課長候補のひとりになっている。本人はギラついていないが、ギラギラした競争に巻き込まれ気味。繰り返しますが戦後20年くらいです。つまり、40代の男性は多くが戦争経験者。なんですが、主人公は「徴兵忌避者」という過去があります。

▼主人公はインテリ大学生だった。戦争に批判的だった。友人のやはりインテリ大学生が、入営していじめとしごきに耐えかねて自殺した事件があった。色々考えて、「この戦争は不毛だし、軍隊はいじめの構造だし・・・」。一念発起して、家族にも黙って、徴兵忌避。つまりは住所不定無職の逃亡者となって、名も身分もいつわり、行商者として日本各地を放浪して生きていきます。終戦まで、およそ5年くらい。

▼徴兵忌避逃亡は大罪です。官憲の目を逃れてサスペンスな歳月。不安で疲弊する日々。その上、「自分の代わりにたれかが入営して、戦争に臨み、殺したり死んだりするのか」という呵責。そして「家族は非国民と呼ばれて塗炭の苦しみなのでは」という苦悩。

▼ともあれ、無事に終戦まで逃げ切ったんです。そして恐る恐る東京の実家に戻る。就職活動をして働き始める。

▼当初は、「ちょっとヒーローと見られる」こともあった。ところが、戦後20年してくると、「あいつは徴兵忌避をした卑怯な裏切り者だ」的な後ろ指をさされるようになる・・・。このあたり、日本の戦後の「意識の歴史」が鋭く認識されています。流石。

▼この小説は、主人公の意識のままに、

A・今(1960年代)、徴兵忌避者だったことが後ろ指刺されて、出世にも関わってくる。それどころか職場に居られなくなりそう・・・

B・過去(1940年代)、徴兵忌避の日々の思い出。

このABが入り乱れて語られます。それでいて混乱はしない。これまたサスガ。

▼どんどんと、主題は「個人と国家」という関係に、熱く沸騰していきます。そういう主題が、主人公の現況と思い出、そして主人公の周囲の人々を通して描かれる。実によくできた小説。

▼最後、現在の主人公の開き直り的な「個人を貫こう」という決意とともに、過去回想は、「徴兵忌避を決意して家出した瞬間の思い出」がサンドイッチになっていきます。そのなんとも凄まじい高揚感といったら、舌を巻きました。すげえ・・・。

▼「戦争」というコトバがざらついた手触りで感じられる昨今、実はすごく現代的な、もっというと永遠に現代的な小説だなあ、、、、と思いました。

2025年2月15日

読書状況 読み終わった [2025年1月4日]
カテゴリ 電子書籍

▼子供つきあい読書、シリーズ第5弾。

▼池の中に隆がいるように見える、という事件。相変わらず健全で、健全なミステリというのが魅力ですね。

2025年2月15日

読書状況 読み終わった [2024年12月31日]
カテゴリ 本:お楽しみ

▼特別長編「雲竜剣」。鬼平シリーズの特別長編は初めてだったので、期待も不安もありました。大まかは剣客商売シリーズと同じで、長編だから特に面白いということもありません。

▼過去の、剣の死と曰くがあった使い手。同じ剣を使う謎の刺客。鬼平の部下が連続殺人。謎の「鍵師」が江戸に現る・・・。だが結局は、2つの盗賊集団の動きがたまたま重なった、という。そして善玉盗賊と悪玉盗賊が親子の使い手だったという。

▼ミステリが明らかになるまでの鬼平たちの右往左往がねちっこく描かれる、というのが長編の醍醐味ですね。50代の部下・吉田さんがいい味出していました。

2024年12月30日

読書状況 読み終わった [2024年12月30日]
カテゴリ 電子書籍

▼元々100分de名著だったもののようです。スピノザ入門。スピノザさんは17世紀のオランダの哲学者。ユダヤ人ながらユダヤ教から破門されているそうで、それは彼の考える思想のせいだそう。「エチカ」が有名ですね。

▼正直に言うと、「神」の有無を巡る議論はよくわかりませんでした。(こちらがに関心が無いせいかもしれません)

▼おもしろかったのは、「個人の自由と幸せと社会」みたいな事柄ですね。
 つまりは各位各個人の尊厳が他人様との交流の中で安全に保たれているのが、それが幸福な自由の条件だ、みたいな話。
 一見、すごく、「自由」という言葉と反している気がしますが、これはこれで納得ができる。つまりぢゃあ、完全に他者と関わりがない状態が、「幸福な自由」と言えるかということになります。
 ほどよい関わりで充足している中で、自発的に?能動的に?動けることが「自由(幸福)」なんでしょうね。

▼そういうなんか、「ほどほど」みたいなバランスが大事、みたいなのはすごく腑に落ちましたね。あと、人間の「体」や「精神」がどこまでのことをなしえるのか、ということを、我々はわからなくて生きて死んでいく、みたいなのも面白かったです。

▼あと、へ~、と思ったのは、ヨーロッパなどの地域で17世紀、つまり1600年代、というのが、その後につながる科学が勃興したんだそう。それを支えたのが哲学である。中世が終わらんとする胎動ですかね。1500年代がルターであり活版印刷だったりすると思うので、そこから革命とナポレオンの18世紀へと「繋ぐ」時代だったのでしょう。中世的な、平たくいえば「迷信」みたいなものが、きっと欧州では密接に「キリスト教」と関わっていたはずで、そこから脱出するというか離陸するために、「自分とはなんなのか」「神とはなんなのか」みたいなことからはじめないといけなかったんだろうな、と。そういう流れに「我思う故に我あり」のデカルトがいたり、スピノザがいたりした。その中で、結局、「自分以外の他人様や社会とどう関わっていくのか」「その中で幸せとか自由ってどう感じるのか」みたいな、資本主義社会になっても不変な項目だけが、21世紀の日本でも「活きた言葉」として読まれているんですね。

2024年12月30日

読書状況 読み終わった [2024年12月30日]
カテゴリ 電子書籍

▼子供(9)との楽しい付き合い読書。シリーズ第4弾。

▼今回は
<学校のうさぎ小屋から、ウサギがいなくなった。密室だったはずなのに>

ネタバレすると







犯人?は、第一発見者である飼育係の女子で。
動機?は、冬場や夏場には、屋内で飼ってあげないとよくないから、ウサギのために。いなくなったことにして、自宅で飼育していた。
手口?は、鏡のようなものを使って、夕方のやや暗い中、ウサギを隠していないかのように見せて、ドアが開いたあとに持ち出していた。

2024年12月30日

読書状況 読み終わった [2024年12月29日]
カテゴリ 本:お楽しみ
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