戦時下であって芸術という理想に生きたいと思いながらも、生きる事自体にどこか諦めを感じている主人公と、生きる事自体に何の感動も疑問も持ちはせず、己の慾に素直に、ただ無垢に生きる白痴の女。相容れない二人が一つの布団に包まって戦火を逃れる際の、まるで恋人であるかの様な描写はとても美しくロマンチシズムを感じた。ごくん、と頷く女に感動を覚えた主人公が抱いたのは確かに愛情の欠片であったと思うけれど、その後、眠る女の傍らで感じた今度の人生を考えた上でのその素直な感情もまた真実であって、そうさせる戦争というものの虚しさと哀しさになんとも言えない切なさを感じた。理想に生きられない主人公のある種の理想を白痴の女に見たような気がする。人間を焼鳥のようだと喩える一連の文章は衝撃的だった。あぁ、なんでもっと早く読まなかったのかなぁ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
青空文庫
- 感想投稿日 : 2014年6月29日
- 読了日 : 2014年6月29日
- 本棚登録日 : 2014年6月29日
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