容疑者Xの献身 (文春文庫)

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レビュー : 2938
著者 :
コジコジさん 文学   読み終わった 

映画『容疑者xの献身』はこれでもかというくらい放送されているのでネタバレを含んだレビューを掲載。

『オール讀物』連載のときの作品名は『容疑者x』で、殺人事件=容疑者x+アリバイというxへの代入が要諦であるわけだが、では単行本化にあたっての「献身」とは何であったか。数学的要素と非論理的で情緒的な「献身」を組み合わせたのはなぜか。読み解く鍵は最後の石神の咆哮だ。

石神は天才として穢れぬ純粋数学の世界に生き、穢れた現実社会に絶望し生きる意味を見失い自殺を図った。そのとき彼を救ったのは、彼が成し遂げられなかった現実社会で、純真に健気に生きる花岡親子の姿であった。石神が感じたのは恋や愛よりむしろ純粋数学と同じ神々しさであったのではないか。自分の絶望を超越した存在となった花岡靖子への畏怖。その瞬間から石神が選んだ役回りは靖子が永久にそう在り続けるよう尽くすことであった。

石神の「容疑者x」の問題は、石神の問題であり、靖子の問題ではなかった。ゆえに花岡親子の完全性を担保できるはずであった、少なくとも石神の脳内では。しかし現実は常に出鱈目で矛盾に満ちた世界だ。不合理なことも起こる。石神の「献身」に神が答えた。自責の念の駆られた靖子の行動は、石神が神格化した靖子を汚し壊崩させてしまった、ひいては同位の純粋数学の神格性をも脅かす出来事であった。石神が最後の吐いた咆哮、それは絶望であり哀しみであり怒りであり、そして人間らしさを取り戻す希望的脱皮の雄叫びであった。このラストがなければ刑務所のなかで純粋数学の世界に生きたであろう石神、靖子の非論理性に触れることで現実社会に再び戻った。これは終わりではなく始まりであろう。

というわけで直木賞受賞作品だけあって非常に面白いエンターテイメント作品であった。

レビュー投稿日
2019年1月28日
読了日
2019年1月28日
本棚登録日
2019年1月14日
3
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