ナインストーリーズ

著者 :
  • 文藝春秋 (2021年6月23日発売)
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本棚登録 : 100
感想 : 20
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初出 2019〜21年「オール讀物」
タイトルどおりの9つの短編集。

昔からこの人の文体が好きだ。
こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。
9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。

フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に、帰国を懇願するが拒否される定年間近の本のデザイナー。
ヘッドハンティングに関わった女性ホテル支配人に、気になっている女性バーテンダーを紹介したら、引き抜かれてしまった業界紙の記者。
放埒な生き方をして負債を残して死んだ義兄の葬儀で、若いときに紹介された義兄の会社の女性事務員に再会する工場を定年退職した男。
親の残した豪邸に一人で住みに続ける浮世離れした元令嬢を、定期的に見舞う老後を生き生きと暮らす女。
若い頃密かな交際をマスコミに騒がれて消滅した元歌手で女優に墓地で再会して、ライブバーで一緒に歌うのを「まるで生きていることのように思」う(?)ジャズバー専属歌手。
夫婦で市役所を定年退職後、ゆとりはあるが味気ない生活に高校の同級生との交流という新しい楽しみができた途端、人間ドックの再検査中に脳梗塞で倒れた男。
婚活で知り合った未亡人が、いい人だが物足りなくなると思い別れるつもりでホテルに誘った(が、深みにはまるらしい)文芸出版の編集者。
商社マンの夫を出張先の外国で亡くして働きながら娘を育て、付き合っている男に求婚され、看護師の娘が男と生きていこうとしているらしいことで決心する女。
長く海外勤務して留守を続け、自分を家に縛るだけの商社マンの夫に離婚を迫り、家を出る妻。

どれも感動の熱いストーリーではないが、じんわりと染みこんでくる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代小説
感想投稿日 : 2021年8月25日
読了日 : 2021年8月25日
本棚登録日 : 2021年8月25日

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