初出 2010〜11年「別冊文藝春秋」

閉鎖的な地縁社会の歪みに捉えられてもがく若者の社会派サスペンス。

人口2千人で山麓の睦ッ代村は、別荘バブルがはじけたあと、生き残り策として10年前にロックフェスティバルを誘致し、全国的に知られるようになった。
村長の一人息子で進学校に通う涌谷広海は、ロックフェスの会場で村出身のモデル・女優・歌手で8才年上の織場由貴美を見かけ、後日声をかけられる。そして由貴美の母親を自殺に追い込んだのに病死したことにした閉鎖的な村に復讐するために協力して欲しいと頼まれ、彼女にのめり込んでいく。ダム湖に沈んだ集落の人は村外へ追われ、支配層だけが利潤をを得て、4家で持ち回って金がばらまかれる町長選挙の仕組みを暴くというのが依頼だが、由貴美の母が広海の父の愛人だったというショッキングな話も聞かされ、復讐の対象が広海の父も含まれて、広海を涌谷家から奪うのも復讐だということを知って動揺する。
ふたりで県外のロックフェスに出かけた帰り、村と組んできたディベロッパー日馬開発の粗暴な息子達也(実は由貴美の企みを阻止しようとしていた)に見とがめられて、由貴美に危害を加えようとした達也がダム湖に沈む。しかし、村の有力者が集まって何もなかったことにされ、由貴美は広海の家に監禁される。
由貴美は母親から実の父は広海の父だと聞かされていたとうち明け、広海は実姉と情を交わしていたことに衝撃を受けるが、父はそれを血液型で否定して二人が結婚していいとまで言うものの、由貴美は唯一の肉親が消えて茫然自失してしまう。
早朝二人で家を出るが追っ手が掛かり、由貴美はダム湖に飛び込み広海も後を追うが、広海だけが助かり、村は何もなかったことになる。今度は広海が復讐に向かう。

2021年11月22日

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読書状況 読み終わった [2021年11月22日]
カテゴリ 青春小説
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2009年刊行の『恋細工』を2011年に文庫化したものを、直木賞受賞で、改題の上再刊

江戸の錺職(金銀細工工房)椋屋の四代目親方が早世し、「次の親方を3年後に義妹で三代目の娘お凜が決めること」という遺言を残し、「平戸」という線細工の技術を持つ時蔵を入れる。孤高の時蔵は他の職人と折り合いが悪くトラブルが続くが、お凜は平戸の技術を真似いくうちに時蔵に惹かれる。
しかし、水野忠邦の天保の改革によって奢侈として金銀細工は禁じられて、工房は危機に立たされるが、販売を担当する同族の生駒屋から、密かに千両で錺神輿の製作が依頼され、工房は一つになって取り組む。生駒屋の政界工作で神田祭で神輿が披露されると民衆からはやんやの喝采を浴びるが、時蔵は意匠をとがめられて捕らえられ、獄死してしまう。
3年経って、お凜を五代目にという四代目の真意が明かされるが、お凜は断って時蔵の残した意匠によって雪の結晶をあしらった香炉を製作して秋田藩に献上し、秋田から技術を修行しに銀細工師がやってくる。

『金春屋ゴメス』の印象が強烈すぎて、その後のこの作品は読んでいなかったが、なかなかの重厚なあじわい。

2021年11月18日

読書状況 読み終わった [2021年11月18日]
カテゴリ 時代小説
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初出 2006〜08年「野性時代」の5短編、2009年単行本化

『かがみの孤城』から辻村ワールドに入ったので、違和感いっぱい。

「踊り場の花子」はミステリーっぽくて犯人が花子さんの世界(無限階段)に閉じ込められる怪談。これが一番すっきり読めた。
「ブランコをこぐ足」はこっくりさんで友達関係を維持すようともがく小学生が、切ない。
「おとうさん、したいがあるよ」は、どこかまでが現実なのかわからなくなる。
「ふちなしのかがみ」は鏡の向こうとの境(縁)がなくなる狂気が、作者のトリックで訳が分からなくなる。
「八月の天変地異」仲間はずれにされたくなくてついた嘘が現実になるのが痛い。

2021年11月8日

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カテゴリ ホラー
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初出 2121年「小説新潮」しゃbけシリーズ第20作

お江戸は春から猛暑で、村も干ばつで困っているという。地球温暖化のためではなく星の代替わりによる天変地異らしく、いくらかでも涼しい根岸の寮へ舟で向かった若旦那たちは、暴れる龍神たちに転覆させられ、不思議な光がぶつかって若旦那が赤ん坊になってしまう。
藤兵衛旦那に知られぬよう妖たちに育てられた若旦那ならぬ「ぼっちゃん」は、3か月で5才くらいに急速に、しかも元気に成長し、近所の子供のに頼まれて薬草を探し、凶作で売られそうになっている娘をたちを人さらいから守る。
半年で12才くらいになると両国に移って芝居小屋の裏で剣術を学び、剣術道場の後継にからむトラブルを解決する。
10か月で元の若旦那に戻って家に帰ると、その日に隣の幼なじみ栄吉に再会し嫁になる人を紹介されるが、訳ありの娘で、宝玉入りの若旦那の紙入れがなくなって大騒ぎ。若旦那の推理で犯人も分かり何とか落ち着く。
江戸で続く妙な追跡劇に巻き込まれて荷車をぶつけられ、寝付いた若旦那が推理して追跡の理由は分かるが、原因になった龍神が落とした石を取り戻すことを頼まれてしまう。
すっかり病弱な若旦那に戻ってしまったのは残念。

2021年10月16日

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書き下ろし

八百屋お七の事件の真相とそれに絡んだ誘拐事件を歌舞伎の女形荻島清之助(本名新九郎)が解決する。

吉原の紅花太夫が妖のような美しい童女に出会う。それが「お七の亡霊の祟り」という噂が広がっていろいろなトラブルが起き、新九郎は太夫から真相を確かめるよう頼まれる。新九郎は八百屋お七の騒動を瓦版にした読売屋を見つけて一緒に家のことを探るが、命を狙われる。
新九郎は出会った童女から太夫と同じ特殊な香が薫ったことで、亡霊の噂はカモフラージュだと気づき、吉原に乗り込んで誘拐の犯人を含む関係者を集めて謎を解く。
太夫は誘拐されてきた童女の身元を知ろうとし、読売屋はお七の恋人で火事の時に行方不明になったお七の妹を探し、新九郎は二人から利用されていた。

誘拐された童女が「お呪い」を使って人を操れるのが、すんなり描かれていて、結末に大きく関わっていないのがちょっと不思議、というか中途半端な感じ。

2021年10月15日

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カテゴリ 時代小説
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2013年『流水浮木 最後の太刀』の改題文庫化

家康の危地脱出に手を貸し公儀隠密となった伊賀者は、吉宗が既存の隠密を信用しなかったため、30俵の扶持で江戸城の門番となっており、百人町の大久保組の者は内職でサツキを育てていた。
剣の使い手だが山歩きをしてサツキの株を探して栽培することに心血を注いで老境に到った山岡晋平にとって「伊賀者」であることはほとんど意味をなしていなかった。幼い頃から一緒だった3人が「伊賀者」であろうとアイデンティティを求めることで次々と命を落とす。
晋平は最初の一人の死から、私的な隠密稼ぎが横行している事を知り、残る二人も頼まれ仕事から放火事件を未遂に終わらせたもののそのために命を落としてしまい、事件の真相を探り始める。娘婿が実は本当の公儀隠密の家柄で、探ろうとしてくる者立ちの目くらましの役を負っていて、協力を受ける。(ちょっと都合が良すぎ。私は一番怪しくないのが犯人かと最初娘婿を疑った。)

時流に逆らってひたすら伊賀者であろうと私的に訓練していた親に育てられた子が成人し、軽業師に身をやつして晋平に伊賀者の再興を求めてくるという時代錯誤は、全然話の本筋ではなく肩透かし。

解説を葉室麟が書いていて、久しぶりに文章に触れて嬉しかった。

2021年10月12日

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カテゴリ 時代小説

初出 2019~20年「週刊新潮」

新宿2丁目への隕石衝突から5年経って、跡地にできた超高層マンションブルータワーで起きた住人3人白い幽霊による殺害事件と、タワーの地下深くの巨大研究施設で進められる一万人の無性欲ベビーの生産という”SF”(サイエンスっぽいファンタジー)。

バツイチで幽体離脱のできる(!)作家前沢は、くだんのブルータワーの57階に若いホモセクシャルの愛人と住んでいるが、不審死の起きた17階を「意識体」になって探ると、オーナーが設置した楠木正成の鎧武者姿のAI(マー君と呼ぶ)に察知され、オーナーの白水から犯人捜しの協力を求められる。
殺されたのは米露中のミサイル担当軍人で、彼らは地球の近くを通る小天体の軌道をミサイルで変えてインドに衝突させてインドを消滅させようとしたのだが、インド軍がそれを察知して直前に更に軌道を変えて「地球の中軸が通り、人類の未来」であるゲイの聖地新宿2丁目に衝突させたのだと分かる。(インドを消滅させられる隕石でどうやって新宿2丁目だけを破壊したの?、そもそも新宿2丁目が地球の中軸、世界原理の体現て何?、理解できん)
しかも、白水はインドの財閥のエージェントであり、巨額の費用を投じてタワーの深地層に研究施設を作り、レイプ被害の経験から人工子宮を開発した中国人の女性科学者を招き、AIとセックスさせることで前沢の幽体離脱の仕組みと暗号コードを解明し、それを利用して無性欲者の天才の意識体を人工子宮で生まれる1万人の赤ん坊に移植して、セックスを必要としない新しい人類を生産し、それを地球の中軸で行うことで世界の原理を変えて、それ以後生まれる子供を全部同じようにするという野望を遂げようとしていた。(なにそれ?)

前半は結構面白いのだが、最後に近づくとどんどん登場人物が増えて理解が追いつかなくなる。白い幽霊の正体も分からず、「地球の中軸」も科学的に何も解明されず、モヤモヤが残る。なんだかなー。。。

2021年10月9日

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初出 2018〜19年「すばる」

クラスから浮いていて軽くいじめられていると周りから見られていたが、他人に関心がなく気にしていない主人公海松子(みるこ)は、社会性を養わせたいと願う両親によって、大学入学を機に、実家から通える距離なのに一人暮らしさせられる。確かに人との距離を測れない痛い感じの子で、大学でも空気を全く読まない生活をする。読んでていたたまれない場面が結構ある。

面白いのが、高校時代の海松子のセンスのいい外見を真似ていた萌音で、母親のプロデュースがなくなってダサくなった海松子のまねをやめて、ほかの学生の真似を始め、海松子と対等に付き合うようになって、夏休みに一緒に与野(論)島まで行き、海松子に好意を寄せ続ける奏樹との仲を応援する。
結果的にそのことが、海松子が自分の感覚は人と違うが、その違いをわかって接していこうとするので、奏樹と付き合うだろうこのあとが楽しみではある。

2021年10月2日

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カテゴリ 現代小説
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シリーズ17作目。初出2018〜21年「オール讀物」
7短編と1中編

冒頭の「麩枕」は清明の出番はなく、唐から雅博に会いに来た白狐の娘の求めで鬼から教えられた曲を吹くと、鬼と葉二の笛の来歴が明らかになる。
「いそざき」は怖い。嫉妬で夫と愛人を殺すために蘆屋道満から教えられたとおり、鬼の面を彫って被って殺したが、面が外れなくなり、20年ぶりに再開した最明寺の和尚となっていた子供に連れられて清明の許にきたが、外れた面の下は面と同じ顔になっていた。
「秘帖・陰陽師 赤死病の仮面」は清明も雅博も登場しない。道長に擬せられた左大臣満長は、太宰府からの猛烈な疫病の報せに、建設中の別邸の規模を拡大して完全に外と隔離して百人ばかりで住む。邸外は疫病であふれ、帝さえ助けを求めに来るが拒絶する。やがて邸内にも疫病が侵入し、満長は部屋に閉じこもる。満長はやがて人々が死に絶えた世界に一人出て行く。コロナ禍の寓意。
最後の「蘇莫者」は朗読劇用に書かれた者らしい。
聴いた曲は演奏できてしまう雅博は、鬼から返して貰った御物の玄象の琵琶で天皇の前で秘曲を弾き、音すら鳴らせない琵琶の第一人者敦実親王から嫉妬され命を狙われるが、暗殺者たちは笛の音に殺意をなくす。敦実親王はかつて「蘇莫者」という曲と舞を使って、死者を呼び出して絶えていた秘曲を習得していた。清明は親王の野望の犠牲になった蝉丸と藤原能子を呼び出し、再度「蘇莫者」を演奏させて使者を呼び出して解決する。

2021年9月26日

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文庫書き下ろし

櫻子ロスの読者に新たなシリーズ?
ぞわりとさせる冒頭の恐怖の記憶シーンは、まだ謎のままだし。

好きだった伯父の葬儀と遺品整理のために久しぶりで旭川に来た主人公青音は、遺品の窃盗、傷害事件に巻き込まれ、葬儀社の望春と双子の紫苑に助けられる。
青音は大学を休学して葬儀社で働き、正太郎と櫻子さんの関係を思わせる年上の望春たちの家に同居し、死にかかわる仕事のストレスで毎日紫苑のカウンリングを受けるのだが、その目的は希有な成分の青音の涙を採集することという、奇妙なもので、しかも、青音が旭川に長く来られなかった子供の頃の恐怖体験の原因が紫苑で、二人ともそれが分かっていながらその謎は明かされない。

今回の謎解きは伯父の5千万の遺産の受取がからむ「伯父の一番好きな食べ物」という問題だったが、これには青音の出生の問題も絡んでいた。正解するけどこれは揉めそう。

2021年9月22日

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初出 岩手日報ほか12紙

主人公の楊枝屋の四男鈴之助は、仕出し屋逢見屋の美人の長女から望まれて婿に入ったが、そこは大女将、女将、若女将の女系が支配する家で、いきなり「凡庸だから婿にした。家業に口出しは無用。」と宣告される。
鈴之助は、同じ立場の義父だけでなく、鬱屈を抱える義妹たち、奉公人に優しく誠実に接するうちに信頼されるようになるが、問題は昨年の墨堤の花見の仕出しで妨害した同業者で、今年も魚河岸を巻き込んだ嫌がらせをしてきたのだが、その原因を探ると同業者の若旦那の逢見屋への憎悪だった。
仲睦まじく暮らすうちに若女将が懐妊したが、男の子が生まれることを恐れるようになり、逢見屋が抱える真相に気づいている鈴之助は悩むことになる。
もっと事件になるかと思った終幕は、割とすんなり収まるが、女将が20年ぶりに会った我が子に語る心情に読者は涙させられる。

直木賞の『心淋し川』より、こういうちょっと切なくて暖かな人情話のほうが好き。

2021年9月13日

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カテゴリ 時代小説
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初出 2009ー11年「新刊展望」。単行本になっておらず、文庫オリジナル。

高校のブラバン仲間5人が大学時代に「ショットガン・ホーンズ」というバンドで活動し、その後バラバラになっていたのだが、清志郎の葬儀に参列した”アカネ”が、啓示を受けて旅(ツアー)に出て、46歳になったバンドの仲間たちに会う。
リストラされた”ハクブン”と会って、近所の高校でトランペットを吹き始めた少年を激励し、偶然聴いたラジオで”チャワン”がレポーターをしていることを知って、メールを送って現場に駆けつける。そこへ妊活で双子を産んだが夫が海外へ行ってしまった”キョウコ”も子供を連れて駆けつける。しかし、「いま、幸せですか?」というメールに”チャワン”は誰にも会わずに引き上げてしまうのだが、その夜、番組のメインパーソナリティと不倫していた”チャワン”は別れるつもりで手首を切って病院に運ばれ、新聞社に勤める”カン”に入った情報から、みんなが病院に駆けつける。
それぞれが厳しい状況に置かれている。人生の前半戦を終え、A面を反転(という表現はCD世代には通じない!)したB面における人生の希望はA面のそれとは違うのだと語られる。
病院のベッドのチャワンに会えたアカネは、「みんなそれぞれのツアーはまだ終わっていない。次のステージのために自分の楽器を鳴らしていて、それは幸せなこと。だからチャワンも次のステージ頑張りなよ。」と励ます。

最後の章は2011年という東日本大震災の状況でどうしても挿入せざるを得なかったのだろう。希望を暗示してはいるが、ここまで単行本にならなかった理由でもあるのかな。

2021年9月8日

読書状況 読み終わった [2021年9月8日]
カテゴリ 現代小説
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初出 2021年「アップルブックス」で配信

ミステリーの作家と作品がふんだんに語られるミステリー愛に満ちあふれた作品。
でも、最初に示される塔の図で、各部屋が密室でないことは容易に想像できてしまう。

生化学分野の特許で巨万の富を得た元研究者にしてミステリー愛好家の神津島が、莫大な資金をつぎ込んでミステリー作品を演じさせる舞台とするために建設したガラスの塔に、配役の6人を招き、被害者となる自分、使用人2人と、”刑事”役の合計10人で『硝子館の殺人』というフィクションの事件に巻き込む。
主人公で、神津島に殺意を持つ医師一条は、神津島の意図どおりに神津島が持っていた”フグの毒”によって密室で”毒殺”するが、電話は通じず、道路がなだれで塞がれて”嵐の山荘”状態となる。
ところが、翌朝執事が、翌々日メイドが殺され、「蝶ヶ岳神隠し」にまつわる怨みによるさつじんというとんでもない方向へ発展し、自分の犯行を隠したい一条は名探偵として招待された碧のワトソン役になって謎解きに当たる。
3日目に碧は全てのトリックを解き、”刑事”を犯人と断定し、”刑事”は犯行を認めるが本当に服毒死してしまう。碧は一条の犯行も見破って、一条は警察が来るまで塔の頂上階で監禁されるが、そこで事件の本当の真相にたどり着く。

ぶっとんだキャラの碧という女性名探偵兼”名犯人”がやたら魅力的で、次の作品にも期待したいところだ。
帯でミステリー界のお歴々が絶賛しているのもうなずける。

2021年9月7日

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読書状況 読み終わった [2021年9月7日]
カテゴリ ミステリー

史料調査のために読んだが、関係資料が見つかった。

2021年9月1日

読書状況 読み終わった [2021年9月1日]
カテゴリ 評伝・史論

史料調査のために読んだが、関係資料が見つかった。

2021年9月1日

読書状況 読み終わった [2021年9月1日]
カテゴリ 評伝・史論

初出 2019〜20年「小説野性時代」の6話で、長兵衛天眼帳シリーズ第2作。

かつての一力節がややおとなしくなった感じ。
江戸は室町の眼鏡の大店村田屋長兵衛の人格と推理と機転の物語で、安政3〜4年の話。

多額の持参金付きの婿を嵌めて不縁にしようと企む扇子屋の主に、神主から”偽りの神託”を語らせて”円満に解決”する「蒼い月代」。でも神をも恐れぬやり口はいかがなものか。
長崎遊学ですっかり長崎かぶれになった村田屋の跡継ぎを、刀研ぎに弟子入りさせて気づかせる「よりより」。
うなぎ屋の潔い代替わりが薬種問屋の主の代替わりを促す「秘伝」。
室町の火の用心の見回りを一冬百両で委託した長兵衛だが、大地震後新しい茶屋を建てるという贔屓の芸者の順弥を応援したが、火消し宿の主がもっと応援していたと知って驚く「上は来ず」。
王子村に湯治に出かけて騙りの犯人の疑いを掛けられたが、本気で取引しようとしていて地震で死んだと真相が分かる表題作。これが一番おもしろかった。
夫を亡くした後わがままになり、息子を激愛して娘夫婦に迷惑を掛けた女が、二千両の富くじを当てたものの落雷で死ぬという因果応報のような「突き止め」は後味の悪い作品。

2021年9月1日

読書状況 読み終わった [2021年9月1日]
カテゴリ 時代小説
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初出 2019〜21年「オール讀物」
タイトルどおりの9つの短編集。

昔からこの人の文体が好きだ。
こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。
9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。

フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に、帰国を懇願するが拒否される定年間近の本のデザイナー。
ヘッドハンティングに関わった女性ホテル支配人に、気になっている女性バーテンダーを紹介したら、引き抜かれてしまった業界紙の記者。
放埒な生き方をして負債を残して死んだ義兄の葬儀で、若いときに紹介された義兄の会社の女性事務員に再会する工場を定年退職した男。
親の残した豪邸に一人で住みに続ける浮世離れした元令嬢を、定期的に見舞う老後を生き生きと暮らす女。
若い頃密かな交際をマスコミに騒がれて消滅した元歌手で女優に墓地で再会して、ライブバーで一緒に歌うのを「まるで生きていることのように思」う(?)ジャズバー専属歌手。
夫婦で市役所を定年退職後、ゆとりはあるが味気ない生活に高校の同級生との交流という新しい楽しみができた途端、人間ドックの再検査中に脳梗塞で倒れた男。
婚活で知り合った未亡人が、いい人だが物足りなくなると思い別れるつもりでホテルに誘った(が、深みにはまるらしい)文芸出版の編集者。
商社マンの夫を出張先の外国で亡くして働きながら娘を育て、付き合っている男に求婚され、看護師の娘が男と生きていこうとしているらしいことで決心する女。
長く海外勤務して留守を続け、自分を家に縛るだけの商社マンの夫に離婚を迫り、家を出る妻。

どれも感動の熱いストーリーではないが、じんわりと染みこんでくる。

2021年8月25日

読書状況 読み終わった [2021年8月25日]
カテゴリ 現代小説

非常におもしろかった『泳ぐ者』の前作で、連続6話。
1話目が『約定』所収で、他は2014〜16年の「小説新潮」

徒目付を扱った小説は読んだことがなかったが、軍事政権である江戸幕府を、平和な世になってから支えたのが、勘定所(財政)と目付(検察と会計検査)なのだという。そこには2種類の人間がいて、何でもこなす表の御用を見込まれて、裏の「頼まれ御用」で稼ぐ者。そしてもう片方が主人公片岡直人のように上を目指すための梯子と考えて必死で表の御用だけを務める者。

片岡は無役の小普請から抜け出し、父が一度だけ旗本格の役職に付いたことで「半席」となっている片岡家を永続の旗本にしようとさらに勘定所を目指していた後者なのだが、そのどちらでもない上役の内藤から渡される「頼まれ御用」を断り切れない。それはすでに罪を認めているが動機を語らない犯人から「なぜ」を聞き出すことだった。

89歳で現役だった台所頭が水死したのは、銘刀を売って買った特殊な釣竿をめぐって72歳の養子と喧嘩し、放り投げた竿を拾うためだったと、養子から聞き出せたが、翌日養子は同じ場所で水死した。

80歳以上で現役の幕臣の例会で、仲が良かった当日の主催者に切りつけたのは、昔疱瘡に罹った息子が希望した真桑瓜を食べさせたが命を落とした。相談して大丈夫だと言った友を恨む気持ちを押さえてきたが、例会で真桑瓜が出されたので、友は何も負い目を感じてこなかったと知った、というのが動機だった。

一年契約で家臣として雇われた農村出身の男が20年以上も実直に働いたものの、病気で辞めたものの行き場がなく元の主家を頼ったが当主を突き落として絶命させ、最も重い鋸引きの刑が決まったのだが、親しんでいた主家の家族の依頼で動機を探ると、代々雇われ家臣に付けられるかつての自分の名前を新参の者が名乗ったからだという。

隠密御用の老人が家の外で近所の当主に切りつけたのは、隠密御用を果たせていないのに下水掃除の割り当てを免除されていた引け目から、水害の多い大川の向こうで育って熱心にドブさらいをしていた男を逆恨みしたものだった。

人間は本当に些細なことで箍が外れてしまう。「見抜く者」としてあまりに人臭い裏の御用の魅力に、片岡は出世の道へ進まなくなる。

2021年8月21日

読書状況 読み終わった [2021年8月21日]
カテゴリ 時代小説

中編3編で、「泡沫の審判」だけが2021年「小説現代」初出、ほかは書き下ろし。

だが、最初の2編は仕掛けられた伏線に過ぎない。
前作を読んだ読者は、「最初から犯人が分かっている神経戦ではラストで度肝を抜かれた前作を超えられないよねー」と思わされる。
ところが、最後の「信用ならない目撃者」のラストで、またしてもやられて叫ぶのだ「何じゃこりゃー」と。

探偵城塚翡翠は、最初から真相お見通しで、犯人を嵌めるのだが、前2編に比べて嵌め方がひどい。物証がないので、犯人に次の殺人をを決意させる。そして犯人ばかりか、同僚、読者まで嵌める。そして本を閉じて、かすかに違和感を感じていた表紙の装画を見て、「なるほどね」とうなずくのだ。

さて、次作はどうなるのか、楽しみだ。

2021年8月17日

読書状況 読み終わった [2021年8月17日]
カテゴリ ミステリー
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初出 2020年「小説 野性時代」

舞台は昭和50年の北海道釧路のキャバレー「パラダイス」。20歳の主人公章介は博打打ちの父から逃れて寮に住み込みで下働きしていたが、父が死んで母は遺骨を残して姿を消した。
そのおんぼろで極寒の寮に、12月のショーの出演者、さえないマジシャン(師匠)、女装の大男の歌手(シャネル)、年齢詐称のストリッパー(フラワーひとみ)が同居するのだが、彼らが実にいい。師匠は実直で優しく、他の二人は口は悪いが人の痛みを分かってさりげなく気遣う。4人の不思議な同居生活がだんだんと楽しくなっていくのが愉快だ。
仕事ではナンバーワンと駆け落ちした照明係の代役を命じられた章介を指導、フォローしてくれ、僧侶の子だったシャネルは何と墓地で古い同姓の墓を見繕って納骨し弔ってくれた。当然ホステスたちの受けもよく、客席も盛り上がる。
本の帯ではラストがいいというが、高額チケットの人気女優のクリスマスショーの翌日、シャネルが、同じ歌をもっとうまく歌って喝采を浴びる場面と、元日に4人でしんみりと海を見に行く場面(実はそのとき寮は火事になっていたのだが)がよかった。映画のシーンが思い浮かぶ。うん、映画にして欲しい。

結局のところ、焼け出された章介は、3人を見送り、しがらみがないのだから一度釧路を出てやりたいことをやってみろと、マネージャー実背中を押される。で、一気に13年飛んで平成になり、師匠と再会するラストシーンになるのだが、この部分の薄さが気になる。

2021年7月24日

読書状況 読み終わった [2021年7月24日]
カテゴリ 現代小説
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初出 2020年「小説新潮」
まだ読んでいない『半席』の続編らしい。

騎馬・御目見得を許されない御家人を対象とする監察役(今で言うなら検察と会計検査院)である「徒目付」片岡直人の、事件の本質を「見抜く者」としての歩みによって謎解きをするミステリー。骨太で面白いし、むだのない文体といい、はっとさせられる語彙といい、味わい深い。

章立てのない話の始まりは、片岡ではなくその上役の組頭内藤の4か月にも及ぶ出張の話なのだが、目から鱗の内容だった。
内藤は対馬にも寄ったが、将軍の代替わりに際して訪れる朝鮮通信使を江戸ではなく対馬で迎えて饗応したのは倹約のためではなく、ロシア船の来航、とりわけ「文化魯寇」という文化3年に択捉島でロシア船2隻に幕府の役所が襲われて敗北した事件の影響だという。本筋の御用は長崎で起きた文化5年のフェートン号事件で、イギリス船によってオランダ商館員と通訳が拉致されたものの、当時長崎の警備を担当していた佐賀藩は何も出来ず、要求どおりの食料を提供して退去してもらった責任をとって長崎奉行が切腹していた。
どちらも「日本は武官が治める武威の国で他国は恐れて攻めてこないし、他国に負けるわけがない」という当時の常識を覆し、幕府の権威というか存在理由をゆるがす事件だったため、一般には知らされなかった。歴史を専攻した身として、当時の人が肌感覚でどう思ったのかという見方を知らされた思いがした。しかし、これは長い前置き。

1話目は内藤の不在中に起きた、退任して病床にあった元勘定組頭が、3年前に離縁した元妻菊枝に息子の目の前で刺殺された事件の「なぜ」に迫った話。
元勘定組頭は越後の代官所の元締手代をしていたのが、帰任する代官に連れてこられた能吏で出世したのだが、元は百姓身分だったことを最もプライドの高い将軍を警護する番方の家から来た嫁から嫌われていたことは分かったが、それが殺人の動機とは思えずに調べるうちに、越後では火葬が一般的で骨は壺に入れずに墓の下の土に撒く事を知って、自分の骨は越後の墓に入れるように息子に言っていたことから、骨が混じるのを嫌がるだろうと思って離縁したという仮説にたどり着く。片岡が黙秘を続ける元妻に仮説をぶつけると、「一人で死ぬのがいやになった。元夫は私に殺されて喜んでいるはず。」という供述をして、その夜獄中で首をつってしまった。片岡はショックを受けて胃をやられてしまったという話で冒頭の食事の場面に戻る。

2話目が表題の「泳ぐ者」。
毎日下手な泳ぎで大川を往復する男がいて、橋に見物人が出ているというので、片岡は確かめに来て男から事情を訊くと、「内藤新宿でやっている古着屋がうまくいかず願掛けの満願まであと2日」だというので見逃したものの、気になって翌日も見に行くと目の前で侍に斬り殺されてしまった。
捕らえた侍は幕臣の御徒で、将軍の前での水練演武に選ばれるための稽古中に株を買った新入りを苛めて死なせ、「事故」にできないために「病死」としてお咎めなしとされたが、大川を往復する男を見て精神が錯乱したと分かったが、男が殺される直前に笑ったのを見た片岡は「なぜ」を解き明かすために内藤新宿へ行く。
殺された蓑吉の店は繁盛していたのを急に畳んでいて、事情を知っている顔役から話を聞き出せたところ、水死した新入りは蓑吉の弟で500両出して御家人株を買ってやったのが仇になってしまったので、町人を殺したら切り捨て御免ではすまないのを見越して、自分の命を囮に仇を打つために仕掛けたものだという。
しかし、片岡の「なぜ」は終わらない。本当にそれだけなのか。長崎への御用旅の途中で兄弟の出身地三河へ寄り、兄弟の家が潰れ百姓となって父が死に、母がいなくなって、乞食が村に来ないように監視する乞食番に雇われた兄弟は、堂守に雇われた姉が売春させられたのを知って井戸に...

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2021年7月20日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年7月20日]
カテゴリ 時代ミステリー
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連続12話の短編で、半分は2019〜20年の「小説幻冬」初出。残りは書き下ろし。

大学の図書館に勤める麦本三歩という若い女性の日常の話の第二弾。
彼女はちょっとずれていて、ドジで、天然ぽくて、先輩たちから叱られたり、いじられたりしている。と前回も書いた。

2021年7月14日

読書状況 読み終わった [2021年7月14日]
カテゴリ 現代小説
タグ

初出 2020年「小説野性時代」

一気読み。今まで読んだこの作者の作品で一番面白かった。何かの賞が取れそうな気がする。

20代の外科医水城千早は、末期癌で同じ病院に入院中の父が死ぬとすぐに弁護士がやって来て「病理解剖するように遺言があった」と言われて動転するが、病理部の同僚の紫織に解剖してもらうと胃壁にレーザーで焼いた暗号のメッセージが残されていた。「ムスメニイウナ」と付け足されて。

なんとも衝撃的な話だが、さらに父の住んでいた実家に行くとすっかり家財が片付けられていていた上に、放火されて危うく殺されそうになる。28年前の幼女連続殺人事件の犯人「千羽鶴」が今度は若い女性を殺し始め、父がその事件を捜査した刑事で、迷宮入りして警察を辞めたことを知って、暗号が事件に関係するものだと気づき、解剖医として遺体のメッセージを聞き取りたい紫織とともに暗号を解くと、見つかったのは5人目の事件の被害者と思われる遺骨だった。

父が暗号を伝えたかったのは捜査一課の桜井刑事だとわかって、3人は協力して真相に迫ろうとするが、犯人の本当の狙いは千早だった。

深刻な家族の問題も途中で予想は付くが、ちゃんと救いがあり、けっこう深い。★5つ。

2021年7月10日

読書状況 読み終わった [2021年7月10日]
カテゴリ ミステリー

初出 2021年「小説現代」

私は「共感覚」というものを知らなかった。音に色が付いて見えるというのは、さぞ混乱することだろう。

「共感覚」を持ち、いろんなものに色が付いて見える小学3年の男の子は、クラスで「色ボケ」とののしられ、いじめられていたが、中等部3年の「共感覚」を持つ、レモン色に見える女の子に出会い、色々と教えてもらうことで、自分を理解していき、「檸檬先生」と呼ぶようになる。
「檸檬先生」から「少年」と呼ばれ、二人で「シンコペテッドクロック」の曲が自分たちにどう見えるかを表現した絵を制作し、文化祭の展示に出展して、講堂でプレゼンテーションをし、自分たちの世界を説明して準優勝し、級友から受け入れられていく。緊張感のあるストーリーのなかで、この場面はほっとする。
しかし「檸檬先生」は「少年」から離れていく。はっきり書かれていないが、大企業の社長令嬢で婿を迎える立場にあったが性自認に悩んでいたらしい。少年が美大生になったとき突然電話で呼び出された先で、「檸檬先生」はビルの上から身を投げてしまう。
生きやすくなった少年を先生はどう思っていたのだろう。

それにしても18歳が書いた作品とは驚き。

2021年7月5日

読書状況 読み終わった [2021年7月5日]
カテゴリ 現代小説
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