合理的なものの詩学—近現代日本文学と理論物理学の邂逅 (ひつじ研究叢書(文学編)12)

著者 :
制作 : 坂野公一 
  • ひつじ書房 (2019年11月5日発売)
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感想 : 2

文学者たちが当時の科学をどのように受容し、文学の世界に還元していたのかの検証を通じて、「日本近現代文学」と「理論物理学」という一見遠い位置にあるふたつをつなげる、面白い一冊です。
特に中心となるのは昭和初期の文学理論や作品。この時期は、相対性理論や量子力学の登場によって、それまでの時代の物理学の前提が大きく揺らいだ時期でした。科学の変動、「物質」と「精神」への理解の変化を目の当たりにした文学者たちはそれをどのように捉え、思考していたのか。相対性理論を日本に紹介した物理学者で歌人・石原純や、横光利一・中河與一・稲垣足穂など新感覚派の面々などの理論・作品が詳細に検討されています。思考の応用のための補説として、東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』論、円城塔『Self-Reference ENGINE』論も併録。
博士論文を元にした本で分量も多いため、一冊としての議論の全体像を把握するには難解で骨太な書ではありますが、そのぶん、昭和の文学を読むために与えてくれる示唆も多いでしょう。
今の目線から見ると「理系/文系」「科学/文学」と簡単に分けて考えてしまいがちですが、いつの時代もそれらは密接に関わり合い、影響を与え合ってきたのであって、「同時代の最先端の科学の知見を人文学にどのように応用していくのか」(またはその逆)という問題は、この本で扱われた昭和初期に限らず、令和の現代でもとても重要なテーマです。そうした意味で、昭和の作家たちの取り組みを知ることは、近現代文学を学ぶ人のみならず、自分の生きる時代の知を広く吸収しようとするあらゆる人にとって、有益なものでありうるでしょう。
(文科三類・2年)(4)

【学内URL】
https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000108526

【学外からの利用方法】
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/literacy/user-guide/campus/offcampus

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: e-book
感想投稿日 : 2022年9月13日
読了日 : 2022年9月13日
本棚登録日 : 2022年9月13日

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