一度は断念したが、読み切った。
デッドロック(どんづまり)へ向かい突き進む法廷裁判の裏で、まずデッドロック卿が麻痺し、事件は急加速する。馬車が突き進む奇妙な馬力は、裁判に向き合う人々の、死をともなう精力にも似ている。
そしてデッドロック夫人が死んだとき、この停滞状態は破裂する。結末に向かい一つ一つの事件がハッピーに解決していく様をみて、読者は安心する。
ただ、これはエスタ・サマスンの一人語りを仮に信ずれば、のことである。ことあるごとに自分の顔について長々と語るサマスン。自分は美しくないと幾度も語るが、その美貌が色あせた後「かつてとこんなに変わってしまった」と狼狽するなど、思うところは隠しきれていない。
また、あまりにも善良すぎて、それを表に出しすぎてはいないだろうか。ディケンズは、本来ならば戯画化されるような「善意の塊」を主人公として、一人称の語り手として現せさせることにより、物語の全てを戯画化してしまったと言ってよいのではないか。
結末の末尾、サマスンが不敵にも自らの美貌を匂わせ「でも、もしかしたら。。。」と締めくくる。ここぞ証拠、サマスンの一人称は全て、彼女の暴走する善意の渦である。我々は今一度、客観的語り手の言葉で、物語を読み直さなければならない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2013年2月14日
- 読了日 : 2013年2月14日
- 本棚登録日 : 2013年2月14日
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