風に舞いあがるビニールシート

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本棚登録 : 2654
レビュー : 556
著者 :
koringo312さん  未設定  読み終わった 

全6編の短編集。
どれも印象の異なる話でしたが、全話に共通しているのは「思い入れ」かなと感じました。
ほっこりするもの、爽やかなもの、悲しいもの、そして狂気を覚えるもの・・・
共感できるものもあり面白く読むことが出来ました。
6編全ての主人公の職業がばらばらで、ですが内容が薄くならず「こんな仕事もあるなだな」という視点からも面白く読めました。
以下は短編ごとの感想。

・器を探して
最も共感できた話です。
主人公の女性の密かで静かな狂気にゾクっとし、そして自分に似ている部分があり共感できたのが大きな理由です。
途中までは、仕事と恋愛(結婚)との板挟みで悩む女性の話かと考えて読んでいました。理不尽でわがままな社長に振り回される毎日に不満もある、しかし、仕事にやりがいもこだわりもある。約束が反故になった彼からの連絡の対応も億劫になってきて・・・
おやと思い始めた、というか私がようやく気付いたのがラスト12ページほどの頃。どちらかといえば”被害者”のような立場だと考えていた主人公の狂気が少しづつ現れだし、ラストで背中がゾクッとなりました。
自分の中で立場は完全に逆転。面白かったです。
陶器好きなので、瀬戸黒にも非常に興味を持ちました。

・犬の散歩
捨て犬を保護するボランティアをする女性の話。
牛丼=尺度という解釈や、この考えに対する主人公の思いがとても繊細に描かれていて良かった。

・守護神
この話もすごく好きです。明るくストレートな物語といういう印象。
ラスト、なんて可愛いやつなんだ裕介・・・なんてイイ奴なんだニシナミユキ・・・と思わずきゅんとしてしまいました。
本への思い入れが強く羨ましいなと感じました。
社会人学生の大変さも知ることができ面白かったです。

・鐘の音
仏像修復士の話。主人公の本島潔は、器を探しての弥生とよく似ているなと感じました。
執着、こだわり、献身さーー
ただ、弥生とは異なり非常に彼は不器用で、挫折を味わい、葛藤します。
数年後に工房に訪れた彼が幸せそうで何よりでした。

・ジェネレーションX
楽しく爽やかな話でした。石津君、ただの軽いやつかと思ってたら、めっちゃイイ奴やんか・・・青春やな~~いいな~~~と、私も部活時代を思い出しニヤニヤしながら読みました。いいなあ。”10年後の約束”。
野田さんもイイ・・・!
ラストは、「おいヒラターーー!」と、思わずツッコミを入れてしましました。

・風に舞い上がるビニールシート
里佳は、ごく普通の、普通の感覚の女性なのだ。
愛する夫と一緒に過ごしたい、帰ってきた夫に安らいでほしい、子供が欲しいーー

日本だけでなく平和な国で暮らす多くの人々にとって、実際に目の前で起こっていない、自分とは直接関係のない”難民”や”戦争”は、日々流れていくニュースの一部でしかないのだろう。
けれど実際にそれを目の当たりにしてしまった、関わってしまったエド。
「風に舞い上がるビニールシートが後を絶たないんだ」
その悲痛な言葉は、読み終えた今も胸に刺さっています。

彼の死後、彼との日々を振り返り、彼の死の瞬間を知り、そして彼の過去を知り、
どうにかならなかったのか、別れる前にもっと分かり合えたんじゃないのか、もっと彼と心安らぐ日々を過ごせる方法があったんじゃないのか、
少しで、小さくていいから、罪悪感なく彼が自分の、家庭での幸せを掴める方法があったんじゃないのか

けれど、そんな小さな幸せも簡単に吹き飛ばしてしまうのが理不尽な戦争なのだろうなと悲しくなりました。
もうすぐ桜の季節。今年も来年も何十年後も、のどかに、そののどかさを共有できる家族や友人と一緒に過ごせますように。

レビュー投稿日
2016年3月25日
読了日
2016年3月25日
本棚登録日
2016年3月25日
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