ちくま文庫版「レ・ミゼラブル(新訳)」(全5巻)を翻訳した著者が世界的な名作を縦横無尽に語るめちゃくちゃ面白い解説本。
本書の構成は、通読した読者は少ないといわれる「レ・ミゼラブル」の構成とあらすじ、2人のナポレオン(1世ボナパルトと3世ルイ)とユゴーの関係、ジャン・バルジャンの人物分析を詳述。最終章では、通読の挫折ポイントである「哲学的部分」が解説されます。
特に面白いと思ったのは
-「レ・ミゼラブル」にはナポレオン1世の名前が111箇所登場する。一方、3世の名前は1度も登場しない。これはユゴーに対する3世の裏切り、ユゴーの亡命に関係する。そして、ユゴーの内面で1世と3世に関する「贖罪」が終わったとき、ユゴーは「レ・ミゼラブル」の再執筆を開始する
-ユゴーはジャン・バルジャンを「素朴でだれしもが尊敬できる『19世紀に可能な唯一のキリスト』として描きたかったのかもしれない。であれば、彼の超人的な描写(馬車を持ち上げてしまうような)が挿入されていても不思議はない
-「レ・ミゼラブル」は貧困を大きなテーマとしている。ユゴーの文学的な先見性は「資本主義社に必然的に伴う貧困という現象の端緒に見られた極端な特徴を鋭敏に感じとり、作品化したところ」
-「レ・ミゼラブル」のクライマックスは世間によく知られている1848年「6月暴動」などの反乱ではなく、あまり知られていない32年「6月蜂起」。これは「蜂起」のほうが、フランス革命の理念を引き継ぎ、高めるものとして理想化し、自らの思想を述べるのに好都合だったため
私は本書を「レ・ミゼラブル」を通読した後に読みました。先に読むか、後に読むかはもちろん自由ですが、個人的には「後に」読まれることをお勧めします。
- 感想投稿日 : 2023年7月5日
- 読了日 : 2023年7月5日
- 本棚登録日 : 2023年7月5日
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