すごかった。冒頭の『花と雨』50首に特に驚かされた。
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傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へ出でゆく
きらきらと波をはこんでゐた川がひかりを落とし橋をくぐりぬ
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一見淡々とした自然描写のようにも思えたけど、
「一瞬ひとはうつむいて」その動作を、そもそも詠むということ。その表現に連れ去られるような感覚。
雪が、「あかるい」という見方。
ひかりを「落とし」という表現も、普通はしない。けど、そう言ったときのしっくり感、抒情。
旧かなづかいに普通感じる硬さというか、形式ばった印象がまったくない。
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川の面にあさくさしこむ俄雨さしこまれながらわづか流るる
話はじめが静かなひととゐたりけりあさがほの裏(り)のあはきあをいろ
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短歌は本来声に出して詠むもので、そうしたときの心地よさ、滑らかさがある歌が多い。
かわ→あさく→さし→にわかあめ→ながら→わづか→ながるる、と「あ」の音が多くて、気持ちがいい。(次のうたも、あああ→いいい→あああ、みたいな)
この人にはおそらく、ある言葉が、次に続く言葉を引き寄せる、というか「歌に詠まれる」みたいな感覚があって、歌を途中でぶつぎりにしたような飛躍が一見ないように思えて、実はイメージが広がりまくってる。みたいな歌が多かったのもそのおかげだと思う。
こんなに"綺麗"と素直に思える連作は初めて読んだ。
(※歌集の後半に行くにつれて、生まれ変わるみたいに違うテイストの歌を作りまくってるのも生命力あふれてて面白い。)
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- 感想投稿日 : 2022年2月9日
- 読了日 : 2022年2月9日
- 本棚登録日 : 2022年1月22日
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