ヘルメ・ハイネの水晶の塔〈上〉 (講談社X文庫―ホワイトハート)

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感想 : 2

<両方が同時に存在する>


 いよいよホンモノの愛読書のことを書こう☆
 この素敵な物語にどんな表現でふれたらいいのか迷うけど、趣味の読書は自由ですから、人に説明するのが難しい小説にほど惹かれるのです。

 著者は美しき言霊を操る歌人で、数多のファンタジー小説の翻訳者でもある井辻朱美さん。自らも夢の泉から汲み上げたような、かぐわしい物語を紡ぎます。少女時代の私の入れ上げようは少々おかしいほどで、著者の全作品に恍惚としていました。
『ヘルメ・ハイネの水晶の塔』は、井辻作品のなかでも特別、霧の中を彷徨うような不思議メルへンです☆

 一枚のちらしに誘われて夏の国を飛び出し、秋のはじまりへとやってきたマーレン。くるくる働き回って元気いっぱいな上巻の姿はとても眩しく、まさに夏の国の女の子でした。この、夏のイメージも好きなんですよ~。
 ところが彼女は「暖炉と箒型の人間」でもあったと言い出して、下巻からは別人のように変貌し、冬枯れの世界の旅人となるのです★
 最初は愛らしい小さな街の物語と思ったのに、マーレンはあまりにも長い旅に出てなかなか帰ってくれません。その上、主役は魔女に途中交代――!?

 こんな遠くまで運ばれてしまうなんて……。いえ、予兆はあったか☆
 すべての人物がいくつかの役を兼ねて、揺れていた。前半で決まっているように見えた性格や役割が、後半で揺らいだり薄まったりします。「しなければならないこと」を担って変わりゆくマーレンやダルシラの様子は悲しくもありますが、私はこの作品の“揺らぎ”をとても愛しているのです。

 老人のセリフを引用します。「本当は両方が同時に存在するのだ」
 二つの世界は絶えずほどけず、どちらが現実か幻か、世界の謎は風となり透き通るーー
 すごくわけのわからないおはなしだけど、ただもう夢中でした。G・マクドナルド、とりわけ井辻さんがお好きな『ファンタスティス』を彷彿とさせます。

2002-12-07

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評
感想投稿日 : 2016年6月12日
読了日 : -
本棚登録日 : 2002年12月7日

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