泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

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本棚登録 : 5794
レビュー : 481
著者 :
木谷りこ★さん はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評   読み終わった 

 初の書き下ろし短編小説! というふれこみのこの本からは、確かにおろしたてのような刷りたてのような匂いが致した。新しい本ってみんなそう? でも、それだけじゃないと思う。

 どこかそっけない文章(必ずしも悪い意味ではなく)。変に感動させようとしないから、うるさくなくて安心。
 書かれていることは、恋愛沙汰などは殊に、私にとっては絶対に他人事なのだけど、それがちゃんと他人事のままで遠くにいてくれる、正しい距離感の本だった。
 すごい恋をしているかもしれないけれど、ある意味どうでもいいこと、他人の話なんだから遠くて当たり前で、その当たり前の距離を勝手につめてこない、一定に保ってもらえる本。
 同情するところは一つもない。卑屈さのかけらも感じられない。いちいち心に残ったり染み入ったりしない、ちゃんと通りすぎていってくれる、質の良い他人事だった。

 安全でも適切でもない人生を、躊躇することなく泳いできたおんなたちが、いっぱい出てくる。多くはこれからもそのまま泳ぎ続けるのだろうな、という予感をふくんだ小説たち。の集まり。

 なぜか、圧倒的な不幸を感じた。彼女たちは幸せと同じくらい不幸だと思った。それも、彼女たちが素晴らしい幸福を訴える時ほど、「不幸だな」という感じは強まった。
 失恋の話の方が、不思議とほっとしてしまう。

 おんなのひと、それも恋愛や家庭がからんだ時のおんなとは、どうしてこうも怖いのであろう? 同じ性別だとは思えないくらい、まるで化け物のようである、おんなという生き物は。

 溺れそうなくらい濃密な恋愛とか、溶け出しそうな心地の、不幸。
 とても綺麗。でも、中は結構どろっとしている。

 短篇小説にはすぐに終わりが来るが、彼女たちにとってはこれから先も、脳みそが溶け出すような午後にさえ、決して、決して躊躇しない人生が続くのだろう。

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レビュージャパン掲載書評
『溺れそうなくらい濃密な恋、溶け出しそうな心地の、不幸。』

レビュー投稿日
2013年8月16日
読了日
-
本棚登録日
2004年3月27日
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