本当にいなくなってしまったの? またいつか会えますように…!
サリー・ポーターは、実は五重人格だった! と、ひとことで表せばそういう物語です。
サリーその人は地味で平凡な娘、として書かれています。う~ん、幼少の頃からたびたび記憶喪失になり、仕事も結婚生活も長くは続かず、あちこち転々としてきた人生を平凡と言うか? 波乱万丈という言葉が思い浮かぶのですけどね……★
ともかく、サリー自身としてのキャラが薄いために、記憶をなくしている間に他の人格が表に出ていたのだそう。それを、精神科医の治療を受けて、人格を一つに統合するまでの過程を綴った小説です★
不思議なのは、人格と一緒に容姿まで変化してしまうところですね。サリー自身は目も髪も茶色。それが、明るいデリーは青い瞳に金髪、絵描きのノラは豊かで落ち着いた雰囲気の黒髪。ベラは厚化粧に赤毛、ジンクスは黒い服ばかり着る、と、色まで変わるのです。
……なんで? 実は私、まだ飲みこめておりませんが……、分かりやすさを産んでいるのは確か。
一見地味なサリーが、たくさんの引き出しを持っていることの証明のようにも受け取れました。
サリーの心が壊れそうな時、様々なかたちをとりつつもサポートしてきた、四つの人格。完璧に消し去られたのではなくて、サリーはまたいつか、デリー的な自分、ベラっぽくふるまう自分に会えるのではないでしょうか?
そういう風に解釈する方が好きなのですが、おそらくダニエル・キイスが書いたのはそういう話ではないのでしょう。一人、また一人と『そして誰もいなくなった』していたようなイメージが……★
『アルジャーノンに花束を』が有名すぎること、『24人のビリー・ミリガン』の24人という人数(?)が強烈すぎることから、この作家の小説の中では少し地味なポジションにあるのが、サリー・ポーターの性格とシンクロしていますね。でも、キイス著作の中からもし1作選ぶとしたら、私はこれだなと思ってます。
- 感想投稿日 : 2012年3月11日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2004年8月3日
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