どちらでもいい

  • 早川書房 (2006年9月1日発売)
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本棚登録 : 191
感想 : 42

<老いて失われるものたち>



『夢・アフォリズム・詩』という、カフカの日記やノート等からこれはという言葉を選び出してまとめた拾遺集と出会い、その読後にたまたま目に入ったのが『どちらでもいい』でした。これが今度は、アゴタ・クリストフのノートやメモから、習作を選びまとめた拾遺集! 何かの縁があるのかな★

 こういうノートを覗いて、面白くなかったことは一度もありません。作家としては、磨きぬいた刃物のような言葉だけを人目にさらしたいのが本音でしょうか!? でも、作家のノートって書きかけほど興味深いのです! 『どちらでもいい』も、限りなく未整理くさい。めくる時にばつの悪さが漂いつつも、A・クリストフに関心があって、読書を進めてしまいました。

 ハイレベルな短編から本当に書きつけ的な断片まで、色々入り混じったこのショートショート集では、作者が長らく長編小説を発表していない理由を窺い知れてしまいます。登場人物の多くは生に疲れ、著者自身が感じているであろう、寄る年波を語るのです。

 職を失う、夫を失う、正気を失う、思い描いていた未来を失う、加齢によりさまざまなものを失う――★ 若い時分には焦りや恐れを生じさせる、喪失感。でも、長きにわたって喪失し続けた者が陥るのは不感症のようです。
 待っているものが来ても来なくてもどちらでもいいし、そこにいる老人が生きていても違っていても、どちらでもいい……? 明るい性格の人が読めば、ここから軽妙さやユーモアを読み取ることができるかな。私にはできませんでした。引きずられるような重さを感じます。もしかしたら、軽くても重くても、どちらでもいいのか!? でもなぁ……。

 未来にむりに望みを託そうとしない人たちの疲弊を、余さず描き切ったクリストフは、執筆の気力さえ枯れなければズバ抜けたセンスなのです。ただこのままでは、書くことに不可欠なはずの、その気力が保つのかという不安も感じます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評
感想投稿日 : 2011年8月31日
読了日 : -
本棚登録日 : 2007年10月5日

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