くるみ割り人形とねずみの王様 (河出文庫―種村季弘コレクション)

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本棚登録 : 72
レビュー : 8
制作 : E.T.A Hoffmann  種村 季弘 
木谷りこ★さん はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評   読み終わった 

 バレエの『くるみ割り人形』の原作と言えば、話が早いのだろう。バレエは視覚に訴えるものだから、きっと華やかな感じだろうなあ。これを書いている私は、バレエ版を見たことがないのだけども……。
 しかし、チャイコフスキーの組曲『くるみ割り人形』は好き。舞台の世界を豊かな音色で表現しているから、音楽のみ鑑賞していても楽しい。おかげでCDのライナーノーツでおおよそを知ったけど、バレエのストーリーは可愛らしく単純化されている。何なら、ホフマンの童話はそれとは別作品と考えていいほどだ。

 ホフマンが書いたのはマリーちゃんで、舞台のはクララちゃんだ。この二人は名前が違うだけではなく、はっきり別人。くるみ割り人形への接し方も違っている。マリーは、人形を腕に抱くどころか触れないようにしているくらいで、態度に怯えを含んでいて慎重だ。
 くるみを割るための実用的な道具だから、愛玩物(可愛いお人形さん♡)という顔つきじゃない。というのもあるのだけれどそれ以上に、マリーはそのくるみ割り人形を見ると、何かを意識してしまうみたい。それを洩らしてしまうと面白くない。感じるしかないだろう。

 ホフマンの描いた物語は、暗いです。暗い童話って面白い。教育上配慮したおはなしより惹かれる。人形にねずみの血がつき、拭き取ろうとすると人形が動き出したように見える場面がある。マリーがビクッとして手を引っこめてしまう感じが、すごくなまなましい。とにかく子どもっぽくないというのが鍵。

 これは「世界でもっともかたいくるみ」を砕く物語。言葉にするとこれも野暮になるけど、読み落としたくないのがくるみのメタファーだ。「かたいくるみ」は、簡単には打ち砕くことのできない悩みの象徴。両親が自身に無関心で愛に餓えていたマリーには、強い「くるみ割り人形」が必要だった……。心の深いところに根差した作品だ。


レビュージャパン掲載書評「世界で一番かたいくるみを噛み割ることの意味は?」

レビュー投稿日
2016年2月26日
読了日
-
本棚登録日
2003年1月27日
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