さくらんぼの性は (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

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本棚登録 : 175
レビュー : 13
制作 : Jeanette Winterson  岸本 佐知子 
木谷りこ★さん はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評   読み終わった 

歴史を空想によって生かし続ける魔法がある

 NHKの大河ドラマは史実の細切れを列挙するだけではなく、ドラマ、お芝居という手法をとっているところがマジカルだ。歴史という事実を語っているはずでも、それはノンフィクションとはなり得ず、想像力の強靭さなしには成立しないものである。脚色という、びっくりするほどの嘘に定着スプレーをかける作業がある。何せ本人以外が語る人生なのだ、素敵な嘘つきにならざるを得ないだろう。
 人物の作品化、人生のドラマ化、脚色のスプレー。奇妙に思わなくもないが、それでもユービックのようなスプレーなしには、世界はここに定着していられない。

『さくらんぼの性は』は、この著者の代表作の一つになりそうな予感がある傑作。ウィンターソンは現代の作家の中でも海を空にふっとばしかねない想像力を持った魔女で、とびきり強力なスプレーで歴史を七色に光らせ、揺らめかせる!
 一つは象をも吹き飛ばす怪力の大女ドッグウーマンの物語、一つは彼女の拾い子ジョーダンが幻の女を探す旅。二つにわかれていた川が再び合流し、時空を切り裂きながら先を続ける。これほど奇想天外な物語ならば「17世紀ロンドン、ピューリタン革命真っ只中」という舞台背景などいらないのではないかと、一瞬思う。一から架空の物語でいいのではと。しかし、ウィンターソンは空想の宇宙に歴史の一コマ一コマを丁寧に切り混ぜる。全体的には作り物語の中で、そこだけがかつてあった出来事として浮いてしまうようなことはない。物語とは、本を開けば今もそこで起きている出来事だからだ。
 実在した人物、実際に起きた出来事が、ただの過去へと流れ去らずに残っていく魔法がある。歴史は物語というかたちをとることで、空想によって生かされていく。

 いや、もしかすると『さくらんぼ』の場合、過去も歴史も未来でさえも、すべては何もなかったことに、見せかけスプレーの仕業になってしまうという方だろうか? スゴイ本を読んだものだなと思っている。

レビュー投稿日
2015年1月26日
読了日
-
本棚登録日
2007年6月29日
0
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