新編日本古典文学全集 (45) 平家物語 (1)

  • 小学館 (1994年5月25日発売)
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 ここ最近、子供の頃から好きだった源平の時代の歴史について知的好奇心が高まっていて、平家物語(信濃前司行長作といわれる)を手に取ってみた。小学館の日本古典文学全集は、全文について原文とともに現代語訳があるので助かる。

 本書は上下巻のうちの上巻(巻第一~巻第六)で、治承・寿永の乱が本格的に始まるあたりまでとなっている。すなわち、中心人物に平清盛、脇役にその嫡子で常識人の重盛が配され、平氏一門の急速な出世、栄華、そして彼らの驕慢、横暴とこれを抑止しようと努める重盛の忠孝が物語の主流となる。これに加え、平氏の悪逆非道な振る舞いに対する平氏以外の公家や武家の反感、比叡山の動きなどがないまぜに語られる。

 栄華を極めた平氏の運命は、清盛らの横暴を抑えていた盤石であった重盛の病死により傾き始める。その翌年には以仁王の令旨を奉じた源頼政が挙兵、これをきっかけとして、それまで各地で息を潜めていた源頼朝、源義仲をはじめとする源氏が一斉に蜂起する。このような風雲急を告げる状況下、清盛は壮絶な死を遂げる。

 平家物語は軍記物語の最高傑作とされているが、その前半部分は上記のような内容であるため意外にも合戦の場面は少なめだった。印象的なのはむしろ、仏教思想の諸行無常・盛者必衰、儒教思想の因果応報といったことが、有名な冒頭箇所のみでなく、平氏の運命を通じて終始、繰り返し述べられることだった。このため、上巻では軍記物語というよりはむしろ仏教説話集に近しい印象を受けた。

 また、諸行無常・盛者必衰による驕れる者、猛き者の滅亡の例として持ち出されているのはすべて反乱を企てて天下を乱した者、人の諫めを聞かず人民の憂いを顧みなかった者となっている。このことについて「解説」は、作者は人生無常の実相を平氏によって例証するとともに、盛者必衰であるゆえに世に栄えときめく者はどのように身を処すべきかという処世訓を示そうとしたのだろうと指摘する。平家物語は、このような意味において現代にも通じる教訓を示していると思う。そのほか、発心遁世と極楽往生を求める人の姿が数多く描かれており、このような欣求浄土の往生思想というものも平安末期の世相を反映したものなのだろう。

 個別の章でいうと、次のようなものが印象的だった。
「殿上闇討」「祇園女御」
清盛の父忠盛の機転が描かれ、清盛は白河院の子だという
「祇王」
清盛に女心を踏みにじられた祇王とともに、世の無常を悟った仏御前が出家
「清水寺炎上」「殿下乗合」「小教訓」「教訓状」「烽火之沙汰」
良識派の重盛の活躍
「足摺」「有王」「僧都死去」
鬼界が島へともに流された成経、康頼帰京後の俊寛の悲劇
「競」
平宗盛が源仲綱の愛馬を奪ったうえ恥辱を加えたため、その父頼政は謀反を決意
「入道死去」
清盛は重い熱病により、頼朝の首を墓前に供えよと言い残して悶死

◆有名な冒頭
「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響あり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。」(巻第一「祇園精舎」)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年2月27日
読了日 : 2021年2月27日
本棚登録日 : 2021年2月27日

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