死神の矢 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2022年2月22日発売)
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本棚登録 : 117
感想 : 9
4

表題作と『蝙蝠と蛞蝓』(人面瘡にも収録)の二作品が併録されたミステリ小説集。二作品とも読みやすく、それでいてミステリとしても抜かりがない一冊となっている。

『死神の矢』
弓の収集家として名高い考古学者・古館博士。金田一耕助は娘の早苗の婿選びに立ち会うことに。弓矢でハートのクイーンを射抜いた者を婿とする。奇抜な婿選びに面食らう一同。しかし、その後に婿候補の一人が閉ざされた浴室で死体となって発見されて──。胸には彼が射たはずの白い矢が突き刺さっていた!

那須与一を思わせる奇妙な婿選びに端を発した殺人事件。シンプルな事件のように見えて、先へ進むほどに違和感が積み上がる。状況が明らかになるにつれ、事件に奥行きが出てきて別の見え方になっていくのが面白い。やはり横溝先生は愛憎を描くのが上手いなと。事件に幕を下ろし、新たなドラマの幕を上げるような人情味あふれる金田一の推理も見どころ。

「きみ、きみ、八木君、なにも怖いことないよ。もう死んでるんだからね。生きてる人間のほうがよっぽど怖いよ」
金田一のこの言葉が好き。生きてる人間の邪悪さ。誰が本当の「悪」だったのか。正義と悪の狭間に揺れ動く人間の心は、矢では射抜けないのかもしれない。


『蝙蝠と蛞蝓』
湯浅順平が住むアパートの隣室へ引っ越してきた蝙蝠のような男・金田一耕助。順平は日頃の鬱憤を晴らすため、裏手に住む蛞蝓女と呼んで観察しているお繁を殺し、その罪を蝙蝠男・金田一へと着せる空想小説を書いた。すると、なぜかその空想は現実のものとなり、しかもその罪は順平に着せられてしまう。不可解な事件の謎やいかに。

タイトルからじめじめした話かと思いきや、展開もオチもユーモラス。サクッと読める短編で好き。殺人の罪を金田一に着せようとする悪趣味な内容の空想小説は、順平の心理が軽妙に描かれていて滑稽なコントのように読める。その壮大なフリからのラストはあまりの痛快さに声を出して笑ってしまった。30ページほどなのに、ミステリとしてのロジックもしっかり組まれていて無駄がない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年2月27日
読了日 : 2022年2月27日
本棚登録日 : 2022年2月27日

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