(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 (14歳の世渡り術)

  • 河出書房新社 (2022年10月27日発売)
4.13
  • (23)
  • (26)
  • (13)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 344
感想 : 39
5

見えないモノを見ようとして望遠鏡を覗き込む。
目の前に見えているやり取りのわずかな隙間に、行間にひょっとして…?と考えて二人の関係やそこに生まれる感情を補完してしまう。
これこそがカップリングが大好きな人間の業である。
それぐらい人間ドラマが、人間関係が好きだ

『名作古典はカップリングだらけ!? 伊勢物語から古今和歌集まで、古文を「カップリング≒関係性の解釈」で妄想しながら読み解く本。「萌えポイント」さえ掴めば楽しく学べて、忘れない!』妄想古文/三宅香帆

この紹介文を見たらカップリングが大好きなオタクは読まざるを得ない。
私はそれらに萌える。
映画や漫画やアニメの登場人物たちの関係性、そこにぐるぐると流れる大きな感情。
おもしろいに違いない。人間の感情が揺れ、轟く様子はどうしたっておもしろい。

人間、千年前も今も相変わらずおもしろい生き物だなあと思う。
時代は明確に違うはずなのに、なんだか現代の人間たちと同じようなことで悩み、同じようなところで躓いている。
三宅さんのわかりやすく作品への愛がこもった解説でつまびらかにされる古文に出てくるカップリングたち。
もう推しカプ(=推しカップリング)候補がありすぎて、こういう時どんな顔すればいいのかわからないの。

三宅さんが最も推したいという中宮定子×清少納言のカプ。
こういうカプ、好きです。まんまとハマりそう。
片方から巨大な矢印がぐーんと向かっているように思わせて、もう片方からも大きさは小さくとも、たくさんの矢印がびゅんびゅんと伸びている相思相愛カプ。
枕草子は清少納言が中宮定子との日々を書いたエッセイだ。
定子に起こる悲劇等は描かず、彼女の素敵な部分だけを思いっきり抽出して綴っているという。
もう清少納言の健気さに胸が苦しくなる。
好きな人の良いところをしか、美しい部分しか描かない。
これは個人的にかなり覚悟のいることで、難しいことだと思う。
三宅さんの解説を読んで思ったことだから、また枕草子をちゃんと読めば考えが変わるのかもしれないけど、清少納言は何があっても、絶対に、定子が憐れまれるような状況を作りたくなかったのかなと思った。
同情や憐憫は清少納言のなかで定子に向けられるべきではない、自分の大好きな人がそういう対象になることが耐えられない、許しがたかったのかもしれない。
定子が見舞われたあれこれを正直に清少納言が書いていたら、きっと色んな学校の古文の先生は訳知り顔で「この中宮定子はねえ、けっこう悲劇的な人だったんですよ」みたいな小話を始めるに違いない。
清少納言の「そうはさせてなるものか」という気概を感じる。
これが愛ではなくてなんだというのか。
枕草子、そんな一面があったの……?もうこれは原作をちゃんと読みたい。
読んで清少納言の定子への愛情に触れたい。

本書内で紹介されていた「『枕草子』は清少納言が中宮定子の鎮魂のために書いたものである説」。これを個人的にめちゃくちゃ推していきたい。
オタクにとって二人を永久に別つ死とはかなりビッグな出来事だ。
推しカプの片方が死んだときにもう片方がレクイエムを贈るという一連の流れ、大好きですから。
山本淳子先生の『枕草子のたくらみ「春はあけぼの」に秘められた思い』も絶対に読みたい。

古文。有名作品の内容はだいたい知っている。高校のころからもっと読みたい、理解したいと思っていた。
でも現実にはそうはいかず、どうしても知識先行の授業内容や参考書の内容は興味の芽を早々に摘み取ってしまう。

三宅さんはまえがきで授業で取れる古文の時間は短い。わかりづらいのも仕方のないことだ、と書いてくれている。
この一文にかなり気が楽になった。
近寄りたくてもなんか近寄りがたくて、近寄ってみたはいいものの自分が打ちのめされたときのことを考えると手が出しづらい分野ではあった。
でもずっと古文で取り扱われる作品のことをもっと理解したい、近づきたいと思っていた。

『本書でお伝えする、学校では教えてもらえない、古文のおいしい部分。
それは―古文で描かれている、人間関係の面白さを知ること。
つまりは【推しカップリングを見つけること】なのです。』妄想古文p17/三宅香帆

人間は人間と関わることから逃れられない。だからこそ人間関係が重厚に描かれた作品や人と人との絆やつながりにフォーカスしたコンテンツは注目され、人気があることが多い。
古文も同じで、同じように楽しめる。
人間関係によって生まれる感情の機微をわかりさえすれば。
職場のこと、家族のこと、恋愛のこと。
どれも関わる人間がいるからこそ生まれる悩みで、それは今も昔も変わらない。
古文は物語として充分におもしろいのだと教えてもらえた。
ひとまず角川のビギナーズ・クラシックスあたりから楽しんでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養・新書
感想投稿日 : 2022年11月6日
読了日 : 2022年10月28日
本棚登録日 : 2022年10月27日

みんなの感想をみる

ツイートする