世界地図の下書き

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本棚登録 : 2470
レビュー : 395
著者 :
九月猫さん 朝井リョウ   読み終わった 

小さい頃に住んでいたマンションの別の階に、夏休みになるとやってくる三姉弟がいて、同じ年頃だったので、会えば一緒に話したり遊んだりしていた。ところが彼ら、三人の結束が強いのはいいのだけど、言動に少し問題があって、困らされることも幾度かあった。
周りの大人たちに、こういうことがあったんだけど、と話すと「ああ、あの子たちはねぇ、仕方ないわー」と、みんな一様に渋い顔をする。聞けば普段は養護施設に預けられている子たちだとか。
両親揃っていても、何らかの事情があっても(どういう事情かは知らないままだけれど)、「施設の子ども」というだけで、渋い顔で「あの子たちはねぇ」と言われる。
困らされたと言っても、しょせん子どもどうし。大人から見れば大したことではないはずで、相手が近所の他の子だったら、きっと笑いながら他の言葉をかけてくれたはず。
「施設の子ども」というだけで偏見の目で見られることに、幼いながらなんともいえない気持ちになったことをよく覚えている。

太輔、淳也、麻利、美保子、佐緒里。
この物語に登場する子どもたちには、そういう大人からの偏見の眼差しは描かれていないが、学校でのいじめは子どもどうしだけれど同じような偏見を感じるし、他に物質的な問題もいろいろと起こる。淳也と麻利、それぞれが受けるいじめ、佐緒里の進学問題……。
そんな中、太輔たちは3年前から中止になった「願いとばし」を復活させようと計画する。
材料の調達方法などは問題があるし、他にやりようがあるだろうにと思うところもあるけれど、一生懸命さは伝わり応援したくなる。
不器用なまでに一生懸命なのは、みんな、大切な誰かのためにやり遂げようとしていたから。
太輔は佐緒里のために、淳也は麻利のために、美保子はお母さんをまだ好きでいられるために。

立ち向かうだけが勇気じゃない。逃げてもいいんだよ。と言ってくれる作品は増えたけれど、この本はそれだけではない。
逃げた先にも、同じだけの希望がある、と言ってくれる。
逃げた先の道だって狭くならない、と言ってくれる。
私たちは、絶対にまた私たちみたいな人に出会える、とその先に希望を抱ける言葉をくれる。
その先がダメでも、また先、そのまた先、きっと希望はある。あるはずだと。

夕暮れの空に次々と上がっていく願いを乗せたランタン。
そのランタンのようにそれぞれ旅立っていく子どもたちには、切なさや淋しさも感じる。
けれど、希望は消えない。
読み終わった後に、表紙の子どもたちの顔を見て、そう信じることができた。

レビュー投稿日
2013年8月18日
読了日
2013年8月5日
本棚登録日
2013年8月14日
28
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『世界地図の下書き』のレビューへのコメント

nejidonさん (2013年8月18日)

九月猫さん、こんにちは♪
感動が伝わってくる、素敵なレビューですね!
どんなお話しなのかが、今回やっと分かりました(笑)。
というのは、この作品を読まれた方がとても多くて、
ブクログ内でもずいぶんレビューを目にしているのです。
ブクログって、ネタばれしてはいけないという規則でもあるのですか?
(ワタクシ、全く無視しております)
希望のない話は読みたくないという、私のようなタイプもいることですし(笑)
というわけで、「まとめの下書き」にもう一冊読書予定が増えることになりました(笑)

話は変わりますが、フリースクールにお話し会で行くことに
なったとき、お仲間さんは誰も彼も拒否したのです。
「そんな所に行っても聞いてくれるかどうか分からない」というのがその理由でした。
私ひとりで行くことになったのですが、どの子もそれはそれは集中して聞いてくれました。
通常学級の子たちよりも、はるかに「聞く態度」が出来てましたよ。
大人の固定観念て、怖いなぁと思った出来事です。
子供たちのことをあれこれ言うよりも、大人から変わらないとね。
でも、大人って変えられないんですよね・・

まろんさん (2013年8月18日)

九月猫さん、こんにちは!

本棚に優しさあふれるコメントをありがとうございました♪
感激のあまり、あちらには妄想あふれるお返事を書いてしまいましたが(笑)

この本、もう読まれたんですね!いいなぁ♪
新聞に書籍広告が載った日、即座に切り抜いて「読みたい本リスト」に貼りつけ
図書館に入るのを今か今かと待ち構えて予約を入れたのですけれど
なぜかもう予約がかなり入っていて、手元にいつ届くことやら。。。

「逃げた先の道だって狭くならない」
いいですねぇ!
九月猫さんの温かくて丁寧なレビューを拝見して
ますますこの本への片想い(?)が深まりました。
なるべく早く手元に届くよう、私も願いをとばします♪

九月猫さん (2013年8月19日)

nejidonさん、こんばんは♪

わあ、褒めてくださってありがとうございます!
褒められて伸びるタイプなので、うれしいです(笑)
(鼻だけ伸びた、にならないようにしなくちゃ!)

ネタばれは良識の範囲を超えず、未読の方の読みたい気持ちを削がなければ、
ある程度踏み込んで書いてもいいんじゃないかなーと個人的には思います。
もちろんトリックとか犯人とかは、書いちゃダメですけれど(^-^;)
nejidonさんのレビューはどれも作品に対する愛情があふれていて、
拝読するともれなく「その本を読みたい!」という気持ちになるので、
気になさらず今のスタイルを続けてくださると、ファンのわたしが喜びます(* ̄∇ ̄*)

>お仲間さんは誰も彼も拒否したのです。
とっても意外でしたし、驚きました。なんだかすごく残念なお話ですね。
>大人の固定観念て、怖いなぁ
本当にそう思います。
年齢(若いほうも老いたほうも)のせいにはしたくないですが、
どうしても歳を重ねるごとに頭が固くなるんですよね……。
変化を嫌うようにもなるし……ワタシも気をつけなきゃ(´・ω・`)

この本は、子どもの身ではどうしようもないことがたくさん起こって
それは切ないんですけれど、
「先のことはわからないけどきっとその先に希望があるんだ」と
信じられる終わり方になっています。
読み終わってから表紙を見ると、子どもたちの表情が心に染みますよ。

九月猫さん (2013年8月19日)

まろんさん、こんばんは♪

こちらのほうこそ、ありがとうございます♪
まろんさんにも「いてよしっ!」って言ってもらえたようで
とてもとてもうれしかったです(*´∇`*)

予約数、すごいんですね!
やはり直木賞受賞後第一作というのと、「情熱大陸」の放送の
影響が大きいのでしょうか。

まろんさんのお手元に早く届きますように♪
わたしも一緒に願いを乗せて心のランタンを飛ばします♪

山本 あやさん (2013年8月19日)

九月猫さん、こんにちはー♡

「世界地図の下書き」楽しみにしてましたーー[*Ü*]

偏見の目。
外国だともっと深刻な偏見の残っている
事柄が多くて、ほんとに悲しくなってしまうけど、
日本もやっぱり何のいわれもない偏見や
育ちや環境、まったく意味をなさない偏見が
消えないことってすごく悲しいですよね。

そして、"逃げてもいい"の先にあるものが書かれて
あるみたいで、ますます読むのが楽しみになりました。

逃げていいと提唱してあげることは意味深いけれど
テレビを見ていても、逃げた先のことは何も、誰も、
本質的な考えてあげられていない不安を感じることもあったり、
原発とかでも、もちろん原発をなくすことは大切だけど
そこで働いている人たち、原発をなくした後に
それに代わる代案などは誰かに丸投げの
文句だけ言いっぱなし状態のテレビやネットの投稿の多さに
少しぐったりしてしまうことも多い中、
ほんとうの意味での後押しになるような良作って
どんどん広がって、あったかい光が
いろんなところで生まれてくれるといいですよね[^-^]

今から読むのがとっても楽しみです!

円軌道の外さん (2013年8月22日)


お疲れ様です。
お久しぶりですね(^O^)

いつもたくさんの
お気に入りポチありがとうございます!


今年はホンマ
暑い日が連日続いてますが
お変わりないですか?


朝井リョウさんの小説は恥ずかしながら
一冊も読んだことのない非国民です(笑)
まぁもともと
ロック気質というか
流行りものには
あまり興味がない生活を送っていたからなんやけど、
九月猫さんの素敵なレビューを読ませてもらって
「コレは読みたいっ!」
「いや、読まなければ!」と
強く思ってしまいました(^_^;)


もうひとつ
読んでみたいって思った理由は、
自分自身
5歳で父と死別し
その後母親に捨てられ
児童養護施設で育ったからです。


まぁ正直
差別は絶えず学校でも
放課後でもあったけど、

自分がプロのボクサーになったのも、
言葉で表現することに目覚めて
文章を書くことや
本の魅力にとりつかれたのも、

そういう環境で育ったからこそ
なんですよね。


だから今となっては
自分の境遇に感謝すらしてるし、
運命に抗う意志を養ってくれた
施設の人たちにも
ありがとうって言いたいです。


確かに生活環境は
幼い子供たちに
いろんな影響を及ぼすし、
周りの大人たちを見て
それが世界のすべてだと思って
子供は育ちます。


つまりそれって
親がいてもいなくても
同じなんですよね(笑)

いくら金持ちの家に生まれて
両親が健在でも、
愛を教えなければ
愛に飢えた子供になるし、

施設で育っても
人と人との繋がりの大切さを教えてくれたり、
愛を注いでくれる大人たちがいれば
人間力は磨かれると思うんです。


今の時代、年齢的に大人というだけで
中身が成熟していない
「なんちゃって大人」が増えてるので、
自分たち親の世代が
子供たちが憧れる
夢を語れるような
カッコいい大人にならなけりゃって
切実に思っています(>_<)


九月猫さん (2013年8月24日)

あやさん、こんばんは♪

そうなんです、この本「逃げてもいい」の「先」が書かれていて、
そこにすごくぐっときました。
逃げた先にも同じようないじめや辛いことがあるかもしれないけれど、と
言ったうえで、でもだからといってその先の道が狭く細くなるわけではない、
って言ってくれるんです。
「逃げる」って言葉が持つ、先の行き止まり感を掃ってくれているので、
これを読んで楽になれる子どもたちがいるといいなぁって思います。
希望、という言葉を素直に信じられるそんな作品でした。

原発・・・同じ考えです。
ないほうがいいんです。そんなの当たり前すぎるくらい当たり前。
でも「今あるもの」を「今すぐ」止めろっていうのはなんて乱暴な言い草かと。
代替エネルギーはもちろん、働いている人たちを受け入れる環境などを
整えるほうが絶対に先ですよね。
直接働いている人だけでなく、連鎖的にいろいろなところに影響も出るでしょうし。
GWと6月に福井に行ったのですが、美浜のあたりきれいな海の向こうに
原発がある風景は残念でしかないけれど、
でも広くて大きくてきれいな町の道や施設(ハコモノがすごく多いんです)の
数々を目にすると複雑な心境になりました。
これって原発があることの恩恵なんだよなぁ・・・って。
0か100か、みたいな極論ではなくて、現実的に順序良く、
そしてもちろんできるだけ速やかに環境を整えてほしいなぁと思います。

って、本作と関係のないお話になっちゃってゴメンナサイ(^-^;)
あやさんと同じく
>文句だけ言いっぱなし状態のテレビやネット に
げんなりすることが多かったので、つい(^-^;)

九月猫さん (2013年8月24日)

円軌道の外さん、こんばんは♪

お久しぶりです。
コメントありがとうございます!
花丸もたくさんありがとうございます(*- -)(*_ _)

残暑とは呼べない(呼びたくない!)暑さが続いていますね。
円軌道の外さんは、体調崩されたりしてらっしゃいませんか?
わたしは・・・夏バテでしばらくブクログをお休みしていました。
しかも復活した早々、今度は昨日まで夏カゼで熱出してました(笑)
今年の夏はなかなか手ごわいです。
円軌道の外さんもお気をつけてお過ごしくださいね。

そんな非国民だなんて(笑)
朝井さん作品は、わたしもこれが初です。
何冊か気になりながらも、なかなか手にとることなく・・・でしたが、
「風立ちぬ」でジブリ熱が上がっていたところにこの近藤さんの表紙と
折り良く放送された「情熱大陸」が良いきっかけになりました♪

円軌道の外さんの境遇はいくつかのレビューにも書いてらっしゃったので、
なんとなく存じていました。
円軌道の外さんのレビューは、本質的な部分での優しさや懐の深さ、また、
芯の真っ直ぐで強い意思を感じ、いつも楽しみに読ませていただいています。

>だから今となっては自分の境遇に感謝すらしてるし、
>運命に抗う意志を養ってくれた施設の人たちにも
>ありがとうって言いたいです。

状況はもちろん違うのですが、わたしも同じようなことを思ったことがあり、
ある人に話したことがあります。そうしたらその人が
「そう言えるようになったのは、乗り越えて飲み込んで消化(昇華)
 できたからだよ。よかったね(*^-^*)」と言ってくれました。
なので円軌道の外さんも、乗り越えて飲み込んで昇華してこられたのだろうなと
(勝手にわたしが思ってるだけですが)思うので、
円軌道の外さんに「よかったね(*^-^*)」と、
素敵な円軌道の外さんの礎を作ってくださった施設の方たちやお友達に
わたしも一緒にありがとうーっ♪って言いたいです。


「なんちゃって大人」・・・うっ、み、耳がイタイ(笑)
間違いなく「なんちゃって大人」の一人です、わたし。・゚・(ノД`)・゚・。

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