久しぶりに熊谷達也を読み始めた理由は、仙台出身、仙台市在住の熊谷達也が、明治三陸沖津波を描いたらしい、と情報を得たので、6ー7年前にはかなり愛読していた彼の大震災に対する姿勢を確かめたくて、紐解いたのである。
ところが、先ずはがっかりした。別に三陸津波を正面から描く必要はない。しかし、主人公の人生にその経験は決定的な影響はもたらさなかったのである。これは津波から波及する物語ではなかった。むしろ最終章を読むと、一ヶ月前の大惨事のことを思い浮かべてしまった。もちろん著者とは無関係ではある。ただし、主人公は明るい。あらゆる厄災も乗り越える。これがこの作品の基底を作っている。
そして、最後の著者プロフィールを見て驚愕した。「近年は宮城県気仙沼市がモデルの三陸の架空の町を舞台とする「仙河海サーガ」を書き続けて」いるというではないか。本書は、その七作目ほどに当たっているらしい。
海の男たちの「サーガ」というと、真っ先に思いつくのは中上健次の「紀州サーガ」である。時代も少し被っている。しかし、読めばわかるが、ここには中上健次と対極の世界観が広がっている。登場人物たちに部落出身者は1人も見当たらない。子どもは、ウノコ竹の子のように産まれはせずに、複雑な家系図は必要ない。必然ドロドロした確執は、あまり描かれず、甚兵衛に至っては、あまりにも順調に成功してゆく。
どうもこの「浜の甚兵衛」は、仙河海サーガの始まり部分に当たるようだ。彼らの関係者がどのように絡んでいるのか。古事記から始まる日本のサーガの行く末を見守りたい気分に今、非常に思っている。
2017年2月読了
- 感想投稿日 : 2017年2月19日
- 読了日 : 2017年2月19日
- 本棚登録日 : 2017年2月19日
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