神様のカルテ (3) (小学館文庫 な 13-3)

著者 :
  • 小学館 (2014年2月6日発売)
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初めて読む作家である。ドラマが始まるから紐解いたわけだが、なぜ「3」から始めるのか。それは映画の「1」も「2」も観ていて感心していたので、効率を選んだというわけだ。ストーリー的にはなんの問題もなく入っていけたが、やはり原作と映画は少し違っていた。

信州松本平にある24時間体制の本庄病院で働く6年目の内科医・栗原一止(いちと)やその同僚たちの日常を描く小説である。医者の労働環境がブラック企業並みの酷さというのは、最近になってしられてきた。コロナ禍の去年は更に知られただろう。それでも彼らは、人の生命を守るために献身的に医療に従事する。私は映画の(悔しくも適役の)櫻井翔が「医師の話ではない!私は人間の話をしているのだ」と哲学的・文学的に叫ぶクライマックスが大好きなのだけど、もう原作ではそういう「私は」と、大上段に語る口調がずっと続いて堪らなくなる。しかも予想外の、これは文体が「医療ハードボイルド」なのである。頭脳の回転の速い人たちばかりが登場するから、自然と会話は機知と比喩と揶揄と箴言に満ちている。栗原一止に至っては、それに文学的教養がついてくる。確かに医師が文学書を紐解かないのはおかしい。「人間」を相手にしているのだから。と、言いながら時間のない医者にとって暇があれば漱石を紐解いている一止は充分変人なのである。

さて、偶然にも終盤の、第四章「大晦日」を私は大晦日31日に読んだ。偶然にも原作中でも大晦日に信州は吹雪だった。その中で、一止は重大な決断をする。その日、現実世界では奇しくもコロナ感染者は東京・全国共に最大を数え、労働環境と家族と医者としての使命との3つのせめぎ合いは、全国の医療従事者の悩みの種になっていた。到底この小説内で型のつく話ではない。

宮崎あおいが、これ以上にない佇まいで医療現場という戦場に傷ついた栗原一止を迎えていた映画が、果たしてテレビドラマではどうなるのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 フィクション
感想投稿日 : 2021年1月3日
読了日 : 2021年1月3日
本棚登録日 : 2021年1月3日

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