三体 II 黒暗森林 (上)

  • 早川書房 (2020年6月18日発売)
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三体世界から送られた侵略艦隊が到着するのが400年後に迫った近未来、国連惑星防衛理事会(PDC)は、4人の面壁者を選ぶ。面壁者たちは、本心を言わないで凡ゆることを実現する権限が与えられる。人間同士のあらゆるコミュニケーションを監視する陽子コンピュータ智子の目を騙すためである。

あと400年間で、果たして三体艦隊と渡り合える力を地球人類は持つことができるのか?

どうやら、勝利の鍵は面壁者の中でも、米国の元国防長官やベネズエラの元大統領、ノーベル賞候補の科学者で元欧州委員長でもなく、無名の中国人社会学者にして主人公の羅輯(ルオ・ジー)らしい。まるで忠臣蔵の大石内蔵助の如く、決戦を前に羅輯がした事は理想の場所で贅沢三昧をすることと、理想の女性と暮らすことだった。こういうケレン味が、ベストセラーを招くのだろう。羅輯の持っている鍵は何なのか、(上)では不明だが、ルーヴル美術館での出来事で、なんとなく予想した。それって、日本人が大得意じゃないか。

彼だけが、三体危機時代の起点となった葉文潔博士から宇宙社会学の二つの公理を聴いている。いや、これは謎でもネタバレでもなんでもないはずだ。(1)生存は、文明の第一欲求である。(2)文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。
文系の私でも、常識的なことのように思える。けれども、(上)ではかなり重要事項らしく何度も出てくる。どう展開するかは予測つかなかった。

著者は文革終了後に凡ゆる世界の知識を詰め込んだ世代なのだろう。日本や世界文学の蘊蓄が至る所に散りばめられているのも魅力のひとつだろう。
待望の「銀河英雄伝説」の引用部分も読んだ。うーむ、秦の始皇帝や墨子の使い方同様、やはり著者の人文系知識はちょっと表面的すぎる。引用の意味は正しいんだけど、あと十数年経っても日本の防衛大臣がサラッと「銀英伝」を引用するとは、日本人としては思えない。

微小コンピュータ智子(ソフォン)は、近未来では「彼女」と呼ばれているらしい。日本語では「ともこ」と女性の名前になるから、そう決めたそうだ。地球規模で危機に対処している時代の「いかにもありそうな未来」ではある。こういう細かいところに、本格SFのリアリティがあるだろう。

因みに、SF読者からは大絶賛の本書ではあるが、我が県の図書館では、第1巻は予約して10ヶ月待ったのに、第二巻(上)を読もうとして2週間しか待たなかった。(下)に至っては、すぐにでも借りられる。この地方都市では、どうもこういう作品に対する免疫ができていないようだ。下巻に期待します。

2021年4月21日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 フィクション
感想投稿日 : 2021年4月21日
読了日 : 2021年4月21日
本棚登録日 : 2021年4月21日

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