人生を危険にさらせ! (幻冬舎文庫)

  • 幻冬舎 (2017年4月11日発売)
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感想 : 6
5

須藤凛々花は気になる存在だった。初めて見たのは「AKBドラフト会議」でトップに近い形で選出された時。「夢は哲学者」という、アイドルとしては珍しい目標も新鮮だった。髪をバッサリ切って、センターを務めた時も蛹から孵った蝶を思わせた。しかし、TVやYouTubeからは、その哲学度の本気は測れない。彼女の初めての(共著とは言え)著作物を読んで、正直私は「ぐぬぬぬぬ」と唸った。かなりイイセンいっていたからである。

単なるニーチェおたくかと思いきや、キチンとその周辺の主要哲学書を読み込んでいて、しかも自分の言葉で語っていたのが素晴らしい。どのように編集されていようとも、本書の彼女の言葉のひとつひとつが、彼女の「(本気から出たという意味で)生の声」であることを、私に信じさせるだけの説得力があった。彼女はキチンと「哲学している」。

これは新しい哲学入門書だ、というレビューが多い。もちろんそういう面は否定しない。哲学史をなぞるのではなく、いく人かの有名哲学者の考えを引用しながら、哲学することの基本に何度も立ち返る構成が、そう思わせるのだろう。

私はしかし、もう一つ重要な側面があると思う。哲学は「問いを立てる」学問である。ここには幾つかの「アイドルだから」「いまどきの若者だから」立てることのできた「問い」がある。その問いを整理して「どういう問いがどのように答えられたか」「どの問いがどのように未回答のままに終わったのか」記して置くことは、レビューとしては意味のあることだと思う。意味と何か。そうです、この本により、大島優子卒業後、珠理奈1人体制だった私の推しメンを「りりぽん」との2人体制にしたいと思う。よって「彼女の成長を見守る」という重要な意味でここにメモしておかなければならない。

ひとつは「よく生きるとは何か」。少なくとも、「生きてここにある」ということは、肯定できるという。「よく」の部分は判断保留。

ひとつは「アイドルとしてどう愛して欲しいか。自分はどう愛したいのか」それに対しては、「属性だけを愛するってちょっと寂しい」「存在そのものを愛おしくなるまで愛したい」ってところで、とりあえず結論が出たのかな?

ひとつは「自由とは何か」。自由という言葉が大好きなりりぽんは、自立と自律で後者を選び、人間だけは自然的因果性の支配から理性によってズレることが出来ることを認めます。「自由であるのではなく、自由になる」。純粋な
りりぽんは、対話の中で一挙にそこにたどり着いた。しかし、社会がそれを奪おうとした時に、彼女はどう反応するだろうか。私はそこを見守りたいと思う。

問題は「正義とは何か」という問いである。彼女は多くの若者と同じように「正義」には懐疑的だ。法も必ずしも正義とは思えない(東野圭吾「さまよう刃」の例)。正義の意味を詰めていって、復讐は正義とは言えない、という処までは同意できたとしても、それでも「正義は必要とされている」という処で同意出来ずに、堀内先生とリリぽんは、喧嘩別れしてしまうのです。あとで、現代のりりぽんはニヒリズム(青年)の立場だから、大人の哲学を拒否したのだと理解し、仲直りするわけですが、「正義」の中味は決して解明されてはいません。もちろん、それでいいと私は思います。

今でも十分「社会」と関わっているりりぽんですが、もっといろいろ「切実な問題」に関わって、その時は「社会」と自分を無関係ではない。と見た上で、「自由に」語る哲学者になって欲しい。ファンとして、見守ってゆきます。

2017年5月読了。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年5月29日
読了日 : 2017年5月29日
本棚登録日 : 2017年5月29日

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