百人一首入門としては、申し分ないくらいに素晴らしい。オールカラーで550円は奇跡的に安い。おそらく学習書として大量発注があるのでしょう。来春は競技カルタがテーマの映画も上映されるので、なおさらこの本は重宝しそうである。何しろ巻末には競技カルタ用のハンドブックまであって、どの文句で下の句が決定出来るか、と覚えるためのイラスト集まであるのだ。例えば「寂しさに宿立ち出でてながむれば」「何処も同じ秋の夕暮れ」の句は「さ」で下の句が決定し、「寂し、何処」と迷い猫を探すイラストで覚えるのだそうだ。知らなかった。
本文も丁寧である。一首につき一ページか二ページをかけて解説して、必ず関連カラー写真が載る。私の好きなのは万葉集なので、古今や新古今はずっと避けて来た。けれども、こういう綺麗な本でさらっと読んでみると、それはそれで感慨深い。しかも80首を過ぎる頃から、技巧的感覚的と聞いていた新古今の歌々から、それが砥ぎ落とされて人生を感じさせるものが多くなったのには驚いた。最後の5首は定家一族と皇室の歌で終わらしたのは仕方ないが、その直前93首源実朝「世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手なかしも」の深さ、99首後鳥羽院の「人も惜し人も恨めしあぢきなく世を思ふゆえにもの思ふ身は」の達観は、流石という他はない。撰者定家の凄みである。
それにしても、最初の4首、万葉集撰歌のほとんどを「改変」しているのは驚いた。「田子の浦」の改変は知っていたが、それもちょっと許せないが、一首目は、作者不詳を天智天皇歌と断定し、持統天皇歌「白妙の衣干したり」を「干すてふ(干すという)」と伝説化し、「あしびきの山鳥の尾の」は、作者不詳なのに柿本人麻呂歌にしてしまっている。そんなこんなで、読めば読むほどいろんな疑問が湧いて来た。困ったものだ。
2015年12月20日読了
- 感想投稿日 : 2015年12月26日
- 読了日 : 2015年12月26日
- 本棚登録日 : 2015年12月26日
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