小川未明童話集 (ハルキ文庫 お 16-1)

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本棚登録 : 126
レビュー : 11
著者 :
kuma0504さん あ行 フィクション   読み終わった 

小川未明童話集を紐解いてみた。ふと目次を見た時にとても懐かしい題名を見つけて「もしかしたら」と思ったのである。それは「眠い町」という話である。

果たして、あの懐かしい話だった。実に(多分)40数年ぶりの再会である。私が幼稚園に通っていたころ、両親は共働きをしていた。かまってあげられないのを不憫に思ったのか、母親は私たち兄弟に月一冊ごと届く絵本シリーズを買い与えていた。そのおかげで私は本が好きになったのだろうと確信しているのであるが、なぜか内容を覚えている絵本は二冊しかない。そのうちの一冊がこの「眠い町」なのだが、何時の間にかボロボロになって無くなっていたのである。作者などは興味がないので、覚えているはずがない。

そのあとに読んだどの童話とも違う不思議な話なのである。だから、覚えていたのだろう。

こんな話だった。

ある日少年は訪れるとどうしても眠ってしまうという町に入り1人の老人に出会う。老人から頼まれて、かけるとすべての物や者が錆びたり眠ってしまう一袋の砂を持って少年は世界を旅する。

というものです。老人が云うのには

「私はおまえに頼みがある。じつは私がこの眠い町を建てたのだ。私はこの町の主である。けれど、おまえも見るように、私はもうだいぶ年を取っている。それで、おまえに頼みがあるのだが、ひとつ私の頼みを聞いてくれぬか。」
と、そのじいさんは、この少年に話しかけました。
 ケーは、こういってじいさんから頼まれれば、男子として聞いてやらぬわけにはゆきません。
「僕の力でできることなら、なんでもしてあげよう。」
 ケーは、このじいさんに誓いました。じいさんは、この少年の言葉を聞いて、ひじょうに喜びました。
「やっと私は安心した。そんならおまえに話すとしよう。私は、この世界に昔から住んでいた人間である。けれど、どこからか新しい人間がやってきて、私の領土をみんな奪ってしまった。そして私の持っていた土地の上に鉄道を敷いたり汽船を走らせたり、電信をかけたりしている。こうしてゆくと、いつかこの地球の上は、一本の木も一つの花も見られなくなってしまうだろう。私は昔から美しいこの山や、森林や、花の咲く野原を愛する。いまの人間はすこしの休息もなく、疲れということも感じなかったら、またたくまにこの地球の上は砂漠となってしまうのだ。私は疲労の砂漠から、袋にその疲労の砂を持ってきた。私は背中にその袋をしょっている。この砂をすこしばかり、どんなものの上にでも振りかけたなら、そのものは、すぐに腐れ、さび、もしくは疲れてしまう。で、おまえにこの袋の中の砂を分けてやるから、これからこの世界を歩くところは、どこにでもすこしずつ、この砂をまいていってくれい。」

今回読んでみて、実はこのじいさんの含蓄のある言葉のことは覚えてなかった。私の覚えていたのは、少年が次々と砂をまいてゆく場面である。

ある日、彼はアルプス山の中を歩いていますと、いうにいわれぬいい景色のところがありました。そこには幾百人の土方や工夫が入っていて、昔からの大木をきり倒し、みごとな石をダイナマイトで打ち砕いて、その後から鉄道を敷いておりました。そこで少年は、袋の中から砂を取り出して、せっかく敷いたレールの上に振りかけました。すると、見るまに白く光っていた鋼鉄のレールは真っ赤にさびたように見えたのでありました……。

頁をめくれば、いっぺんに寂れてゆく鉄道。それは絵本の醍醐味です。

 またある繁華な雑沓をきわめた都会をケーが歩いていましたときに、むこうから走ってきた自動車が、危うく殺すばかりに一人のでっち小僧をはねとばして、ふりむきもせずゆきすぎようとしましたから、彼は袋の砂をつかむが早いか、車輪に投げかけました。すると見るまに車の運転は止まってしまいました。で、群集は、この無礼な自動車を難なく押さえることができました。
 またあるとき、ケーは土木工事をしているそばを通りかかりますと、多くの人足が疲れて汗を流していました。それを見ると気の毒になりましたから、彼は、ごくすこしばかりの砂を監督人の体にまきかけました。と、監督は、たちまちの間に眠気をもよおし、
「さあ、みんなも、ちっと休むだ。」
といって、彼は、そこにある帽子を頭に当てて日の光をさえぎりながら、ぐうぐうと寝こんでしまいました。

私は少年が「正義の行い」をしている気持ちにもなりましたが、一方では、世界を錆させてしまう行いがなんとなく「いけないこと」のようにも感じていました。不思議な感覚です。

 ケーは、汽車に乗ったり、汽船に乗ったり、また鉄工場にいったりして、この砂をいたるところでまきましたから、とうとう砂
はなくなってしまいました。「この砂がなくなったら、ふたたびこの眠い町に帰ってこい。すると、この国の皇子にしてやる。」
と、じいさんのいった言葉を思い出し、少年は、じいさんにあおうと思って、「眠い町」に旅出をしました。
 幾日かの後「眠い町」にきました。けれども、いつのまにか昔見たような灰色の建物は跡形もありませんでした。のみならず、そこには大きな建物が並んで、烟が空にみなぎっているばかりでなく、鉄工場からは響きが起こってきて、電線はくもの巣のように張られ、電車は市中を縦横に走っていました。
 この有り様を見ると、あまりの驚きに、少年は声をたてることもできず、驚きの眼をみはって、いっしょうけんめいにその光景を見守っていました。

皇子にならなくていいから、私は老人は少年を褒めて欲しかった。だから、このラストはショックだった。でも、このラストがあったから、心にずっと残ったのかもしれない。

新品の物をわざわざ錆びさせにゆく行為に、いったい何の意味があるのか。

それは長い間、長い間、私の大きな疑問だった。いや、今もそうかもしれない。けれども、人生も後半になると、なんとなくわかるのも確かです。震災あとには一層その気持ちが強まったかもしれない。

小川未明の作品には、その後に読んだ宮沢賢治や新美南吉とはまったく違う不可思議で怖くて切なくて残酷な作品が多い。今回童話集を買ってビックリした。
2013年6月29日読了

レビュー投稿日
2013年8月4日
読了日
2013年8月4日
本棚登録日
2013年8月4日
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