キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

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  • ナツメ社 (2019年7月8日発売)
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キリン研究を志した郡司芽久さん(女性・当時23歳)は、論文のテーマが決まらなかった時、先輩にこのように言われた。「凡人が普通に考えて普通に思いつくようなことって、きっと誰かがもう既にやっていることだと思うんだよね。もしやられていなかったとしても、大して面白くないことか、証明不可能なことか。本当に面白い研究テーマって、凡人の俺らが、考えて考えて、それこそノイローゼになるぐらい考え抜いた後、更にその一歩先にあるんじゃないかな」(99p)
まぁ、世の中の偉大な発見は「証明不可能」なことを証明してみせたり、「偶然」に見つかることが多いかもしれないけど、その辺りは「天才」に任せて、確かに凡人の私たちにはこんな処に落ち着くんだと思う。その辺りを素人の私も「楽しく」読めるように丁寧に書いている。「難しい事を分かりやすく面白く描く」これって、一つの才能だろう。

で、偶然にも若いのにキリンを20体以上動物園から献体してもらいキリン研究をこころざして約7年間で「キリンの胸椎は、胸椎だけど、動くんじゃないだろうか?」という研究論文を書く(当時26歳)。

200万年以上前から哺乳類は人間含めてみんな7つの頸椎しか持っていない(マナティとナマケモノは例外)のだけど、キリンは8番目の"首の骨"を持っているのではないか?ということを20代で見つけたわけだ。偶然にも多数解剖できた彼女は基本的にラッキーな所もあったとは思うが、半分以上は情熱とキリンへの愛情が論文を書かせたのだろう(現在30歳)。

それだけである。「偉大な発見」じゃない。哺乳類の進化の鍵を見つけたというわけでも無い(と思う)。でも、進化の秘密を少しかすった(とは思う)。キリンは生き残るために、そうやって身体機能を少し変えたのだ。科学の世界が面白いのは、評価された研究ならば、まるで自分の研究成果のように「知識」として、他の研究成果を著作権料を払わずにこういう本で披露できることだ(コラムとして、他の研究成果がたくさん紹介されている)。だから、数年後に郡司さんの研究が大きな謎解明に役立つかもしれない。

郡司さんは、「世界で1番キリンを解剖している人間」だと自分を紹介している。「解剖すればするほど、その動物のことを好きになっていく」と言っている。人間ならばホラーだけど、動物ならばあり得るかなと思う(でも、考えたらちょっと怖い)。「今は亡きキリンたちの「第二の生涯」ともいえる死後の物語を読んで欲しい」と著者は思ってこれを書いたという。そういう愛情の表現の仕方もあるのだ。

(成る程と思ったキリン知識の一つ)
※中国ではキリンのことを「長頸鹿」と呼び、麒麟とは呼ばない。呼んだのはただ一度、明の時代、鄭和がアフリカからキリンを持ち帰り、永楽帝に「これが(あの伝説の)麒麟です」と奏上したらしい。その記録を読んだ『解体新書』の桂川甫周が「洋書のジラフと、この麒麟は同一だろう」と推察した。だから、日本ではキリンのことを麒麟と書くのである。因みに、インドに生息していた絶滅したキリンの仲間、ジラファ・シヴァレンスは長頸ではなく、伝説霊獣の麒麟によく似ているそうだ。むしろヘラジカのような姿をしている(鹿ではない)。なるほど、麒麟伝説は何処から来たのか、少し興味がある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2019年11月1日
読了日 : 2019年11月1日
本棚登録日 : 2019年11月1日

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