沖縄への短い帰還

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  • ボーダーインク (2016年6月1日発売)
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池澤夏樹という作家の書く本を読むことが多くなった。私は気になった作家はできるだけ読む方針。もっとも彼の著作は、あまりにも多く、全てを網羅するのは最初から諦めている。小説も幾らかは読もうと思っているが、これからは私が読むのは評論の方に軸足を移すだろう。

彼は福永武彦の息子ではあるが、評論のスタイルは、私が8割は読んでいると思っている加藤周一に似ている。加藤はお父さんの友人で、子どもの頃から親交があったことを除いても、共通点がある。理系出身であること。人生の多くを世界を移住しながら、過ごしてきたこと。世界と日本文学への博覧強記。その世界観の広さ。リベラルな発言活動。もちろん違いもある。戦争を経て無いのもあるのか、あまり政治へは加藤周一ほどコミットしない。興味関心は、加藤周一よりも1箇所にとどまる傾向がある。小説は、遥かに加藤よりも上手い。その他いろいろは、これからもっと観て行きたい。

これは94年から04年まで、沖縄県那覇、南城市知念に移り住んだ前後の、関連文書を集めたエッセイ集である。ボーダーインクという、本土ではあまり知られていない地方出版社の発行であり、地元用に書かれた文章も散見していて、結果、歯に衣着せぬ珍しい文章が集まった気がする。

いま「安倍政権というとんでもない強風が吹いた。焔は高く燃え上がる」季節に、ナイチャー(内地人)に通じる言葉を持つ池澤夏樹は貴重なのかもしれない。

以下、面白いと思った箇所を羅列する。
○沖縄の「石敢當」の風習。魔物は直進する。魔物は恐ろしいけれどもちょっとバカである。福建省辺りの考え。曲がる時に曲がれるのが知恵の証拠。狩猟民の生活誌を読んでいると、賢いものだけが曲がれるというのは、動物界全体に共通することらしい。(58p)
○人と土地の関係は、男女の仲に似ている。(70p)
○「四軍調整官による講演の計画に抗議する」2003年2月26日、知念村役場に持参。
イラク戦争直前の情勢下での計画。「判断力を欠く子ども相手の講演というのは、意図的なものならば卑劣であり、意図せざるものであれば非常識きわまると言わざるをえません。」(←こういう直接行動は加藤周一はおろか、日本知識人としても珍しい)(79p)
○「流日戦争1609」上原隆史 ボーダーインク これはこの戦争について、多分初めての、きちんとした歴史の本。
○「借金返しちくりー」と鳴く「しゃっきん鳥(池澤夏樹命名)」が、沖縄にはいる。シロガシラである。台湾から来たらしい。台湾では「ペタコ」。
○「日本は単一民族国家だ」と言ってはいけない。自分は違うと言う人が1人でもいたら、そうではない。のです。その人の人格を否定することになるわけだから。そのように決めないと人種問題は動きません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年10月23日
読了日 : 2017年10月23日
本棚登録日 : 2017年10月23日

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