私が初めて読んだ和辻哲郎の本。
和辻哲郎の名前とその代表作である「古寺巡礼」の名前は耳にした事があったが、これまで和辻氏の著作を読んだ事がなかった。
この本は、戦前に欧州留学をしていた和辻氏が妻の照夫人に留学先から送った手紙を体裁を整えて本にしたものである。
まず感じたのは、和辻氏の美術に関する表現の素晴らしさである。
それは独特でしかもその作品の本質を見事に言い表している。
頭で理解するというより感覚的に分かると言ったほうが良いかもしれない。
例えば和辻氏が絶賛している”シヌエッサのヴィーナス”については、以下のように表現している。
肉体の表面が横にすべっているという感じは寸毫もない。
あらゆる点が中から湧き出してわれわれの方に向いている。
内が完全に外に現れ、外は完全に内を表している。
それは「霊魂」と対立させた意味の「肉体」ではなく、霊魂そのものである肉体、肉体になり切っている霊魂である。
人間の「いのち」の美しさ、「いのち」の担っている深い力、それをこれほどまでに「形」に具現化した事は、実際に驚くべきことである。
現代日本において、この様に美術品を表現する事ができる人間がはたしているのだろうかとも思ってしまった。
また、ローマ建築とギリシャ建築の違いを評して、前者はメカニズム(機構)の美しさであり、後者はオルガニズム(有機体)の美しさであるとも書いているが、非常に的を得ていると感じた。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
西洋美術
- 感想投稿日 : 2015年1月22日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年1月22日
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