年間5ミリシーベルト以下の放射線量の被曝区域を低線量汚染地域といって、放射線の影響を考慮しなくていい、とそれを専門とする国際機関によって認定されている地域のことを指す。ウクライナのコロステン市はこれに該当するのだが、甲状腺癌始め、白血病、循環器系、呼吸器系などの疾患を抱える患者が近年増加の一途をたどっている。市民の健康悪化はチェルノブイリ原発事故の前後ではっきり差異が見受けられるものの、国際機関は市民の疾患と放射線の因果関係を甲状腺癌などごく一部の疾患以外は認めない。それは「科学的に証明ができない」からだが、この言い回しは、科学的な方法で検証したのだが、因果関係があるとは見なせない、といっているのではなく、データがないから科学的に証明する術がないということなのだ。証明ができないから、何もしないという、国際機関の主張に真っ向から反論しているのが、ウクライナの医師たちだ。被曝の2世である自国の子供たちの約8割が慢性疾患をかかえ、自国の未来を奪われたに等しい異常事態を目にする医師たちの怒りは想像に難くない。メチル水銀が原因と認定するのに10年を費やした水俣病、その10年間の間の患者の苦しみと被害の拡大を思うと、「科学的な証明を待つ」ということはどういうことだったのか、と福島という被曝地域を抱える日本は、本書のウクライナの事例から学ぶべき点が多々あると思う。ちなみにわが日本の行政は、福島の初期被曝の調査を中止させ科学的調査の可能性を放棄したあげく、因果関係については国際機関の規範に倣い、なぜか国際基準の4倍増の年間20ミリシーベルト以下を安全としている。ウクライナよりも初期対応や食物摂取の注意で優位と思われる福島がただちに危険ではないかも知れないが、26年後の保証がなされたわけではない。
- 感想投稿日 : 2013年12月3日
- 読了日 : 2013年12月3日
- 本棚登録日 : 2013年12月3日
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