中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇

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  • 文藝春秋 (2011年3月9日発売)
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”太り過ぎ?” こんな直球を名画に投げられるのは、筆者ぐらいだろう。そして、確かに・・とうなずく読者の気持ちを察するかのように、それは我々が「痩せ礼賛」の文化に浸かっているだけだと、筆者は説く。

本書は厳選したギリシャ神話の20の物語からなり、名画たちがそれぞれの話の中に、数点おさめられている。ゼウスにまつわる話が4話、ヴィーナスにまつわる話が6話、アポロンにまつわる話が4話、その他の神にまつわる話が6話で構成されており、一話あたり83円だ。カラーページの絵画も含めてこの値段とは、実に安い買い物ではなかろうか。

筆者は絵画を鑑賞する際、構える必要は決してない、と説く。当時の人達にとって絵画は「娯楽」であったのだから、もっと肩の力を抜いて、気軽に楽しむべきだと力説する。

そうは言っても、現代人にとってギリシャ神話の絵画鑑賞となると、ある程度の基礎知識が必要であるし、物語を知れば知るほど、謎に満ちていて理解に苦しむ。それに加えて、じっくり鑑賞するにはヌードが多すぎて、凝視するのは抵抗がある。そんな我々を最高神のゼウスは天空から俯瞰し、絶対的な余裕でヌーディな美女を次々と口説き、確実に愛を満たしてゆく。羨ましくもあるが、かなり度を超えている。他の神々も負けてはおらず、不倫、近親相姦、ボーイズラブと自らの愛欲を貫く。もう、何でもありなのだ。人々が親しみ連綿と伝えてきた神話を堅苦しい道徳に当てはめるなど、ばかげているのかもしれない。やはり筆者のように、娯楽と思って楽しむべきなのだ。

そんなギリシャ神話を、天才画家たちはそれぞれの想像と筆にまかせて、自由に描く。
繊細で物悲しく、優美でやるせなく、官能的で忘れがたく、名画は語る。その悩ましい作品すべてを、余すことなく解説してゆく筆者はまさしく見巧者だ。日本人にとって縁遠いギリシャ神話は、本書を読んだ者にとっては遠い過去の話となる。心ゆくまで神々のいたずらな人生を堪能しよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年7月22日
読了日 : -
本棚登録日 : 2014年7月22日

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