完訳チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1996年11月22日発売)
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感想 : 67
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ある年代以上の人なら「チャタレイ夫人」と言えば「猥褻」の代名詞というイメージだと思う。私も敢えて猥褻なものを読んでみようとは思わなかったので読んでいなかったのだが、たまたまロレンスの短編集を読んだら、素晴らしかったので、ロレンスの作品が猥褻だけの筈がない、と読んでみた。
まず、読む前のイメージは、夫が戦争で下半身不随になり、性に飢えた上流階級のチャタレイ夫人が無学でマッチョな森番と性愛の悦びを知る、という感じ。
だから、チャタレイ夫人がそもそも森番に出会う前にも浮気をしていたことや、夫もそれを認めていたこと、森番が中背で痩せていて、無学ではないことはちょっとした驚きだった。チャタレイ夫人とメラーズの関係は、身分違いだが真っ当な恋愛なのである。
貴族であり、作家でもある夫の人間としてのつまらなさ、浮気相手ともわかり合えない空虚さ、さらには炭鉱で働く人々を搾取することについての夫との意見の相違(これは、階級についての小説なのだ!)がまずチャタレイ夫人の苦しみで、性的な問題はその苦しみのひとつに過ぎない。
メラーズも、森番ではあるが、フランス語も操り、本も読み、戦争では出世した人物であるが、戦争や妻との関係、体を壊したことなどから、孤独であることを敢えて選んで生きている。
身分違いの恋愛、それからイギリスにがっちり根付いた階級の問題、日本よりずっと早くやって来た炭鉱の黄昏、その中であがきながら生きる二人の物語なのである。性愛のシーンはあるが、多分今どきの一般的な恋愛小説よりずっとあっさりしていると思う。これが猥褻とされて最高裁までいったということに隔世の感を抱く。そういうシーン自体全体の分量からすれば、それほど多くないし、そもそも全体をちゃんと読めば、猥褻が目的ではないことはわかって当然なのだ。
読んで面白い小説だし、本当に人間というものがよく描けていると思う。
とりあえず一番古い伊藤整訳で読んだが、光文社の古典新訳文庫もよさそうだった。ちくま文庫の訳は、メラーズが九州弁を喋るのがどうしても違和感があり(なんだかコミカルになるというか)読めなかった。
翻訳ものは、複数の訳がある場合は、よくよく吟味してから読んだ方が良いと思う。九州弁が悪いわけではないけど、外国の方言を日本の方言に置き換えるのは無理なのではないかと。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年10月22日
読了日 : 2017年10月15日
本棚登録日 : 2017年10月15日

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