騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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本棚登録 : 3773
レビュー : 552
著者 :
kurodamaさん 小説   読み終わった 

騎士団長殺しの絵を解放したことによって、全てのモノゴトが動き出した。そこから出てきたイデアとしての騎士団長。免色氏が訪れて、自分の子供かもしれない女の子、まりえと会いたい、そしてその子を連れてきた叔母に恋をする免色氏。何かがおかしい、はめられている、そんな感覚を持ちつつ、抗えない別の世界の動きを感じ始める主人公の葛藤。
そして、ついにまりえが行方不明になってしまう。同時に、騎士団長殺しの作者雨田具彦の容体が悪化、家を主人公に貸してくれた息子からの連絡が入って一緒に伊豆の病院に向かう。そこで、騎士団長と再会することに。自分を刺し殺せば、まりえの発見に近づくと示唆され、絵画の情景のように騎士団長を刺した主人公は、不思議な場所で、試練を与えられる。それを乗り越えた先には、真っ暗な穴のなか、鈴を鳴らすと、免色氏が蓋を開けて助け出そうとしてくれている。やっとの事で出てみたら、まりえは見つかったという。
騎士団長殺しの絵と、雨田具彦の体験した過去。雨田具彦の息子の友人として、絵を発見した主人公と、その周りの出来事、妊娠した離婚直前の妻は、妊娠の相手との結婚を拒否。そして、騎士団長殺しを書いた雨田具彦のように、主人公は渾身の絵を描くことができたのか、それは現実を超えたイデアの絵であり、イデアは世の中を動かしてしまうものでもある。そのキーとなるのが、穴だ。それがイデアとメタファー、現実ともう一つの世界をつなぐ扉である。この部分は、ハッと思えば、1Q84などもそうだったなと。パラレルワールドを可視化する手段は今のところない、よって扉を使って教えてくれているような気がする。
読み終えた後に、おそらく多くの人が、第一部の冒頭プロローグを読み返したのではないかと思う。導入で起きた事象が一体何を表していたのか、その答えは最後まで読み進めて初めて理解可能なものだから。外国ではそのエロさ部分への酷評も見受けられた本作は、実はテーマは全く違うところにある。不倫で身体を重ね合う行為、ナチスや南京事件など大量殺戮、しかも正義が見出せない、イデアとしてもタブー視されたモノゴトに、一石を投じる作品になっている。事実がどうであれ、それがもたらす災こそがリアルであり、その殺戮や行為自体はイデアである、観念として行為者となりうるのだから、それが現実ではなく、でも現実以上の行為になっているのだと。二重のメタファーに襲い掛かられるシーンは、目の前の事象に対して、その行為に至るイデア部分をイデアが否定する状況、つまりはイデアを暗い穴にひきづり込んで失わせてしまうイメージを持った(専門家が読めば違うのかもしれないが)。登場人物の描写も敢えて、相当細かい。ジャケットの色から、靴まで、そして少女の胸の大きさまで繰り返し述べられる。これに、気持ち悪い感覚を持たせることがおそらく村上春樹氏の考えるストーリーそのものだろう。可視化できる、いわゆる見えている現実とその後ろにあるメタファー的なものがあり、メタファーこそが恐ろしいのだと。その最たる存在が、白いスバル・フォレスターの男である。悪い方のイデアの象徴、つまりは自身が悪であることと、その象徴として対峙する存在として描かられている点が、本作で唯一と言っていい大きな変革だと思った。最後は一人で生きていくということではなく、悪であるイデアも認め、そこと対峙して生きていく。おそらく、というか確実にフォレスターの男は自分自身だ。自分自身の中にある大っ嫌いな存在。いつかまた向き合うときがくる、その戦いに向けて準備するには時間がまだかかるんだ。それは、カオナシ人間の絵を肖像画を描く、つまりは本質を見る力がついたとき、本質を描けるようになったとき、守り神であるペンギンのキーホルダーを返してもらったときなんだとつながっていく。
感想としては、やっぱり筆者は言わずと知れたではあるけれど天才だ、他の小説がおままごとのように見えてしまうくらい、すごい。

レビュー投稿日
2019年2月9日
読了日
2019年2月9日
本棚登録日
2019年2月9日
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