ふゆねこ (講談社の創作絵本)

  • 講談社 (2010年11月20日発売)
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本棚登録 : 172
感想 : 29
5

 かんのゆうこさんの物語と、様々な絵描きさんとの組み合わせによって、それぞれに異なる味が生み出される『四季ねこシリーズ』だが、本書は、シリーズもの関係なく、ひとつの作品としての素晴らしさを感じられた、喪失から再生への物語である。

 上記のような絵本と聞いて、私が思いつくのは、湯本香樹実さんの『くまとやまねこ』だが、それとはまた異なる趣があるのが、また印象深く、その物語の展開や構成も含めて、とてもよく考えられてるなあと思わせるものがあった。

 また、その冬の切々とした静謐さの中にもある、ほのかな温かみを抑えた色調で描いた、こみねゆらさんの、素朴なヨーロッパの片田舎の雰囲気を纏った絵も素敵で、特に見返しの、まるで雪の結晶を糸で編んだような、隙間のあるパッチワークのようなデザインの美しさは、本編とも関係の深いものを思わせてハッとさせられるし、その他にも、玄関の三和土やテーブルクロスといった、きめ細かい模様の描写も素晴らしい。


 物語は、主人公の女の子「ちさと」のおかあさんが亡くなったことから始まり、悲しみに暮れる彼女に、おとうさんは「おかあさんはね、おほしさまに なったんだよ」と、ドラマなどでも聞かれそうなことを言うが、実際に、これがどれだけの慰めになるのだろうかといったら、おそらく気休めにもならないのだろうと思わせた、その根拠は、ちさとの、どんなに探しても、おかあさんが見つからない、その泣いている姿からも察することが出来て、ここからいったい、どんな展開にしていくのだろうと不安が募るが・・・。

 なんと、その次のページになると、いきなり雪のように真っ白な猫が、人間のような二本脚で立って、ちさとと玄関で対面している絵が現れ、その、あまりに当然ですよと云わんばかりの物腰には、思わず、ちさとも固い表情となるが、私はこの場面に、それまでの悲しくて重い雰囲気を、ちょっと和らげてくれるような効果があるのではないかと感じられた。

 しかも、それまでずっと暗めの絵の中に文章を入れていたのが、ここに来て初めて、見開きの半分をまるまる白を背景にした文章だけの構成にしている点にも、ちょっとした抜け感というか、息抜きを与えてくれているようで、それによって私も、思いも寄らぬ悲しい始まりに戸惑っていた気持ちから、少し違う視点を見せてくれたような、落ち着きを得た気分になることが出来た。

 更に、この場面を強調するように、次のページはふゆねこの上半身を拡大した絵になっているが、ここでのふゆねこの、おかあさんは〈ひかりのくに〉で元気に暮らしていて、もう戻ることの出来ない彼女に頼まれて、代わりにやって来たことを伝える様子と、そのふゆねこの両方の瞳に映る、ちさとの姿には、たとえちさとの姿が絵には無くても、二人がどれだけ真剣な思いでこのやり取りをしているのかが、よく分かる、こみねさんの素晴らしい描写だと思う。

 そして、ふゆねこが、おかあさんから頼まれたことは、今年の冬に間に合うように、おかあさんが編んでいた手袋が、その完成間近で亡くなったため、最後の部分をふゆねこに編み上げて欲しいというもので、早速取りかかるが、その上手な手捌きに思わず、ちさとが「どうして そんなに あみものが じょうずなの?」と聞くと、「ながくて さむい ふゆのあいだ、いろんなものを あたためるのが わたしの しごとですからね、あみものなんて おてのものです」と、分かったような、よく分からないような答えを返されるが、その編み物をする優しい佇まいの、まるで彼女自身が乗り移ったかのような慈愛に満ちた雰囲気には、ちさとも、きっと何か感じたものがあったに違いない。

 何故ならば、その後、完成した手袋を見ることによって、ちさとの心の中には、過去のおかあさんとの素敵な思い出が浮かんで来たり、それをはめて頬にあててみたときの、まるで、おかあさんに抱きしめてもらっているような、とても温かい気持ちになれたことは、その未完成のまま眠っていた手袋ではなく、完成されたそれがあるからこそ、初めてなることの出来た感情なのであって、であるのならば、それを生み出した、ふゆねこというのは、おかあさんと全く同じような存在といっても差し支えないのではと、私は思ったのである。

 と書きつつも、実は様々な解釈が出来そうなのが、本書のまた奥深い点だと感じ、一応、ネタばれっぽい出来事は最後に起こるのだが、それでも、あれこれと想像を巡らせたくなるものがあり、もう少しだけ書くと、ふゆねことおかあさんの関係性が生まれたことによって、ちさととの関係性も生まれてきた、このトライアングルの素晴らしさは、それぞれが糸によって繋がっており、糸というのは、あっさり切ることが出来そうで、実は幾重にも重ねて編み上げると、思いのほか、しっかりとした丈夫なものへと変わり、それがまるで、ちさととふゆねことの絆から、人と人との絆、ちさととおかあさんとの確かな絆へ移行するようにも思われた、そこには、新たな喪失から再生への物語が生まれ出しており、そのファンタジーの中にもあった確かな現実的希望は、最初と最後の絵が、共に現実に在るものを抱きしめている描写でありながらも、そこに含まれた気持ちや意味合いは全く異なっていることからも証明されているのだろうと、私は思う。


 ふゆねこが役目を終えて帰るとき、外はいつの間にか、雪が降り始めていた。

「あしたは きっと、ゆきだるまが つくれますよ」

 そのふゆねこの言葉に込められた思いと、表紙の絵が、私の中でリンクする。

 きっと、いつまでも降り続くような、その雪の、ひと粒ひと粒は、おかあさんの嬉し涙なのであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2024年1月9日
読了日 : 2024年1月9日
本棚登録日 : 2024年1月9日

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コメント 3件

たださんのコメント
2024/01/09

なおなおさんのおかげで、改めて、四季ねこシリーズに触れることが出来ました!

ありがとうございます(*'▽'*)

なおなおさんのコメント
2024/01/09

たださん…素晴らしいレビュー!
私の名前が出てなくてほっとしていたらコメント欄に…^^;…隠れたいです。|彡サッ
私もそのシーズンに読もうと思います。次は「はるねこ」を。こちらこそありがとうございます。

たださんのコメント
2024/01/09

なおなおさん、コメントありがとうございます(^^)

もう「あきねこ」の内容が思い出せないくらい、時が経ってしまっていて、このまま本書とも出会わずに終わっていたのかもしれないのと、こみねゆらさんの絵が・・・クリスマス絵本特集にもあったのですが、好きでして、改めて読むことが出来たことに感謝しております!
「はるねこ」も、ちょうどいい時期に読みたいですね(^^ゞ

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