カレル・チャペックの、「長い長いお医者さんの話」や、いぬいとみこさん、ご自身の、「ながいながいペンギンの話」を彷彿とさせる、この絵本、発売は1973年ですが、元は1958年に誕生していたお話です。
『ここは、日本海にのびている
ちいさなちいさな半島です』
そして、この絵本誕生のきっかけになったのが、上記の文章との出会いに宿命的なものを感じた、本書の舞台となる丹後半島が故郷である、津田櫓冬さんの絵ですが、その淡い水彩で描かれた、素朴でありながらも、様々な色に煌めくような多彩な色を細かく散りばめた丹後半島の自然の絵には、津田さんは、過疎の波に洗われるふるさとと、「作者のことば」に書かれていたが、私には、なんて情緒があって清々しい風景なのだろうと、心が洗われて、何故、津田さんがこのような思いを馳せるのか、それは彼が本書に込めた気持ちからも感じられた、とても切実な思いでした。
『「大きいことはいいことだ!」のかけ声にかき消されてきた、ちいさなちいさな声がみなさんの手もとに届きますように』
また、本書の良さは、こうした切実な思いを楽しく届けてくれる、いぬいさんの物語にもあり、いったい本文だけで何回出て来たのかと思うくらい、頭から離れなくなりそうな、『ちいさなちいさな』の連呼には(数えてみたら全部で60回でした)、読み聞かせに於いて、子どもがつい真似したくなる魅力がありそうで、だからこそ、より強く印象付けられるであろう、たとえ、それがどんなに小さくて、目に留まらないものであっても、そこには確かに息づいている、自然の瑞々しい脈動があるのです。
そして、そんなちいさなちいさな思いを汲み取った物語は、本編に於いて、ちいさなちいさな男の子のささやかな願いを叶えてあげることとも直結した、世界は小さなものから大きなものまで、様々な要素で成り立っていることを、やわらかく教えてくれて、それは、その後の男の子の気持ちと、それに応えた、ちいさなちいさな駅長さんの、ちいさなちいさな駅に対する思いからも感じられたのです。
『過疎の声の高い海べのふるさとを大切にする人びとといっしょに、ちいさなちいさな駅長さんが、いつまでも働けますように…と、私は祈りたい』(いぬいさんの「作者のことば」より)
『ことは遊びの楽しさにひかれて、いっしょうけんめい作ったお話』と書かれていた、いぬいさんの、この物語と、ちいさな声でもきっと届くと信じた津田さんの、そんな優しさを感じられた温かい絵による祈りも、きっと届いたのでしょう、本書の舞台となっている「宮津・西舞鶴両駅間」を走る、『京都丹後鉄道・宮舞線』は、日本でも有数の絶景路線として、今年の4月12日で開業100年を迎えたそうです。
遅くなりましたが、改めまして、偉業達成おめでとうございます。
- 感想投稿日 : 2024年5月5日
- 読了日 : 2024年5月5日
- 本棚登録日 : 2024年5月5日
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