母の友2024年3月号 特集「なんで忘れちゃうんだろう?」

制作 : 「母の友」編集部 
  • 福音館書店 (2024年2月2日発売)
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感想 : 6
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 特集のタイトル、「なんで忘れちゃうんだろう?」を見ると、年齢的に不安に感じられる点もあったものの、内容は忘れることだけではなく、記憶や記録についても様々な角度から取り上げており、『記憶は人間の財産』や『日記はやさしい』、『子どもとの日々の存在』など、各コーナーのタイトルだけで興味を惹かれるような多彩さが、この雑誌の良いところだと、改めて実感させてくれます。

 その中でも私が気になったのは、著書に『脳科学者の母が認知症になる』がある脳科学者、恩蔵絢子さんの「忘れる、忘れない、脳の話」であり、単純に脳そのものの仕組みが興味深い。

 例えば、脳はお豆腐みたいにぶよぶよしていて、頭蓋骨の中にあるのは一リットルたらず。子どもの頃は成長するけれど、大人になってからはあまり新しい細胞が作られないので、限られた量の中身をうまく使い回していく運命にあるとか、「怖かった」「うれしかった」というような忘れられない記憶が脳の中に残るのは、また次に起こったらもっとうまく行動できるようにしようと脳は考えるからだとか、知っても不安は残るかもしれないけれど、知らないでいるよりは安心感を得られたような心持ちがあったことと、知的好奇心が満たされる満足感を得られたことが嬉しかった。

 また、もう一つ印象的だったのが、本書の連載、「心のセルフケア」でもお馴染みの、高井祐子さんの「忘れられない心の傷をいたわる」であり、その中の『過去に起きた出来事は消えることはありませんが過去に起きた出来事をどうとらえるかは変えることができます』は、決して軽く扱えるものではない、繊細な内容ではあるし、私も過去に心当たりはいくらでもあるが、こうして言葉にしてくれたことには感謝の気持ちが芽生え、これは決して忘れないだろうと思うし、上記したような脳に残る記憶だからこそ、時間をかけてじっくりと取り組みたい。


 ここからは、特集以外の気になったコーナーです。

 「読んであげるお話のページ」の、垂石眞子さんの「さくらと海とさくら貝」は、これ単品だけでも欲しいと思ったほどの素晴らしい内容で、その優しさと儚さが共存した淡い水彩の絵からも感じられた、ほのかな切なさは、「桜の花びら」と「みいちゃん」の、時間限定のささやかな海への旅から始まり、そこで出会った海の願いをさくら貝に託すことによって、それぞれに叶うことが出来た奇跡的な自然の喜びに、女の子のみいちゃんが関わっていた、そんな二度と無いような素敵な想い出は決して忘れないだろうと思われた物語は、別れの季節である今の時期にもぴったりで、桜の花びらとさくら貝の夢のコラボレーションも楽しかった。

「絵本作家対談 阿部結×みやこしあきこ(後編)」
 それぞれに、絵本は子どものものとは思っていない理由が独特で印象に残り、阿部さんの『子どもに向けて描いています、というのは、なんだかおこがましいなと思ってしまうというか』、みやこしさんの、『子どもが理解できる設定ということは意識するけれど、でも世の子どもたちが何を喜ぶかなんてわからない』、それぞれの言葉に、子どもの持つ無限の可能性や奥の深さを感じられながらも、それを理解できたのは、自身の子ども時代のことを、はっきりと客観視出来ているからであったことには、子どもの気持ちに寄り添うためのヒントを得たようでもあったのが、また印象的だった。

 また、みやこしさんの絵本が出来上がる過程は興味深く、『まず、一場面が最初にあるんです。お話は後から考えていく』や『ひとつの絵に他の場面がどんどん広がっていってアイデアが育っていくものが絵本になる』は、まさにイメージ通りで、特に最近の作品を見ていると、ひとつひとつの絵が、それ単体でも充分に成り立つような、ただじっと見ているだけで想像力が無限に刺激されるんですよね。

「わたしのストーリー」
 小山田浩子さん第2回は、前回とは対照的に読んでいて辛くやるせないものがあり、しかもご自身がそんな体験をした分、余計に痛感させられたのは、『もし自分の子供がそんな風に信じていたものが崩れ去ったような気持ちになっているとしたら気づいて寄り添いたいが多分無理かもしれない』であり、それは故意ではなくとも、結果地雷を踏ませてしまったような、何がきっかけでそうなるのか分からない、人が完璧な存在ではないからこそ起こり得ると共に、それは人がとても繊細で思い遣る一面も持った存在なんだということも痛感させられた、幼い頃の体験というのは、時に一生忘れられないような、心の傷を残してしまうこともあるのですよ。

小川たまかさんの「自由のほうへ行くために」
 『日本にも優しいひとはたくさんいるはずだけれど、残念ながらその声は、誰か一人でも「ずる」をする可能性がある制度は絶対にあってはならないという圧にかき消される』に共感し、これは日本人ならではの真面目さや治安の良さの反映なのかもしれないけれど、もう少し幅を広げた判断でもいけるんじゃないですかね、とも思わせる歯痒さも感じ、時には、何でもかんでも100%駄目とするより、多少の裁量の余地を残しておいた方が、結果良くなる場合もあると思うのに、まあ、これは必ずこうだと決まってた方が安心するのでしょうね。その方が楽ですし。でも、ここで小川さんが取り上げていることは、まさに緊急性の高い、その人の一生がかかった問題ですよと、声を大にして言いたくなり、最後の『「おもてなし」の国の裏』のおもてなしが、私には思わず『表無し』に見えてしまう悲しさであった。


 来月号から母の友も新年度となり、新コーナーの予告がありましたが、私としては、山崎ナオコーラさんの小説が今から楽しみです!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生活文化誌
感想投稿日 : 2024年3月12日
読了日 : 2024年3月12日
本棚登録日 : 2024年3月12日

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