ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

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本棚登録 : 10205
レビュー : 1294
著者 :
kwosaさん ミステリ(国内)   読み終わった 

エピローグの衝撃。
彼は本当に恐ろしい相手に立ち向かっていたのだと気付く。
自身の「力」ひとつで。
「ぼく」のメジャースプーンで。

たとえば、それを「悪」と呼ぶのであれば、悪とは過剰なものではなく、むしろ欠落であるような気がする。
愛や敬意や美意識、その他いろいろな生活や心を豊かにする感情。
人間を人間足らしめているものの欠落。

主義や主張、方向性の違いで衝突するのであれば理解できる。
でも、何かが足りない人と向き合う自信はない。
極道の親分は恐いとは思うが、まだ話せばわかる気がする。
それよりも、たとえば花壇にカップラーメンの食べ残しを容器ごと捨てていく人間のほうが、僕は恐ろしい。

小学校二年生にして、すでに心に「メジャースプーン」を持つ少女、ふみちゃん。
もし僕が同級生であったとして、彼女のその魅力に気付くことができるかといえば怪しいところだが、いま身近にこんな娘がいたら確実に好きになっていただろう。
それだけに「犯人」に、ふみちゃんのことを「萌える」「萌えない」といった尺度で判断された瞬間、煮えたぎった液体が胸までこみ上げてくるようだった。

透明な石がついたキラキラに輝く三本のスプーンと、百円ショップで叩き売りされているような安物のスケール。
大切なのは生きてきた時間の長さではない。
その時間をどのように使ったかということだろう。

哲学の基本は対話であるというが「秋先生」と「ぼく」の一週間のレッスンは、まさに師匠と弟子のそれである。
罪と罰、生命とは、裁判と量刑など正解のない問答に、読んでいる僕まで深く考えさせられた。
ミステリ、エンタテインメントとして単純に読んでも面白いのに、この趣向の中に深遠なテーマを織り込んで、尚かつどちらの魅力も損なわない辻村深月は本当に凄い。

ふみちゃんからメジャースプーンを譲り受けていた「ぼく」は、すでに認められていたはずだ。
それを持つ資格があると。

料理の苦手な人ほど調味料を量らない。
腕のいい料理人でも最初はきっちり計量カップやスプーンを使い、しっかりと基本を身体に染み込ませていく。
そうして身体の中に自分なりの尺度を作り上げていった上で、はじめて「適当」や「いい加減」ができるのだ。

僕のメジャースプーンは輝いているだろうか。
欠けて狂ってはいないだろうか。

レビュー投稿日
2013年4月30日
読了日
2013年4月18日
本棚登録日
2013年4月18日
24
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『ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)』のレビューへのコメント

まろんさん (2013年5月2日)

kwosaさん!

もちろん、kwosaさんのメジャースプーンはきらきらと輝いていますよ!
本を読んだ人も、まだ読んでいない人も
間違いなく心を震わせるだろうこのレビューが
kwosaさんのメジャースプーンの輝きをいっぱいに湛えていますもの。

人間らしい感情や品性がすっぽりと抜け落ちている人、
そしてそのことに気付いてもいない人こそが、いちばん恐ろしい。ほんとうに!
心にしんしんと降り積もっていくような、秋先生のレッスンを受けて
言葉も思いも通じない犯人に、小さな体で立ち向かった僕の決意を知って、ぽろぽろ泣きました。

この本でふみちゃんと僕のファンになってくださったなら、
ぜひぜひ『名前探しの放課後』を!
たぶんこの本で興味を抱かずにいられなくなった秋先生のことを
もっと知りたいと思われたなら、ちょっとダークな味わいだけれど『子どもたちは夜と遊ぶ』を。
でもでも、『名前探しの放課後』の前に、できれば『凍りのくじら』も・・・・
と、kwosaさんに読んで、そしてレビューを書いていただきたい作品がいっぱいです!

kwosaさん (2013年5月2日)

まろんさん!

コメントありがとうございます。

『スロウハイツの神様』で辻村深月さんを知り、次は短めなものをと図書館で予約。
手に届いた順番で、この本を読みました。
次に『凍りのくじら』が控えていますよ。

おすすめされた『子どもたちは夜と遊ぶ』も『名前探しの放課後』も絶対読みます!
読むのにベストな順番というのはあるのでしょうが、ああ、どれから読んでいいのか悩みます。
でも『名前探しの放課後』を一番最後にというのがいいんでしょうかね?

まろんさん (2013年5月3日)

kwosaさん!

次に『凍りのくじら』が控えているなんて。。。
ベストな順番です!
さすがkwosaさん、本の神様に愛されていますね♪

辻村さんの作品は、できるだけ発表順に読んだほうがいいとは言われていますが
私としては、『凍りのくじら』のあとは、メジャースプーンの感動が冷めやらないうちに
『名前探しの放課後』を読んでいただきたいなぁと思ってしまいます。
というか、正直に告白すると、辻村さんの本の中では
『名前探しの放課後』が飛びぬけていちばん好きなので
kwosaさんがどんなふうに読んで、どんなレビューを書いてくださるのか
気になってしかたがないのです。

でも、メジャースプーンのエピローグに思ってもみなかった深い解釈をしてくださったkwosaさんなので
『子どもたちは夜と遊ぶ』のラストをどんなふうに読み解かれるのかも
とてもとても気になっていたりするのですが。。。

kwosaさん (2013年5月3日)

まろんさん!

辻村深月を全部読みたい! はやく読みたい! でも読み尽くしてしまうのはもったいない!
そんなジレンマに陥りそうです。

でも、しっかり読んで、まろんさんを始めブクログのお仲間達がどんなレビューを書いていらっしゃるのかをはやく知りたいです。
これほど感想を語り合いたくなる作家はなかなかいないです。

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