桐島、部活やめるってよ

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本棚登録 : 3920
レビュー : 932
著者 :
kwosaさん 小説(国内)   読み終わった 

川沿いの大手予備校の向かい側に、打ち立ての讃岐うどんを食べさせる店がある。
久しぶりの一人の日曜日、昼食はそこでとろうと自転車を走らせた。
一時を少し回った頃だったが、十人掛けの長テーブル三列はそこそこ埋まるくらいの繁盛ぶりだった。
かき揚げのトッピングを選び会計を済ませ、向かい合わせに座る男子高校生二人組のそば、椅子を一つはさんで隣に席を取った。
さあ食べようとしたその時、女子高校生がひとり僕の隣に座る。
満席というわけではない店内で、この年頃の女の子が男性客に囲まれるように席を取るのは珍しい。その子がセルフサービスの水を汲みに席を立ったとき、男子二人組の片方が
「もっといい席があろうに」
そうつぶやくのが聞こえた。
向こう側のテーブルでは四人組の女子がたのしそうにおしゃべりしていて、その側にはグループ客が帰ったばかりか、ぽっかりとスペースが空いている。AKBの練習生くらいには華があるその四人組がちらちらとこちらを気にしている。
僕の隣の、おとなしめのちょっと垢抜けない女の子は、テーブルのかたわらの携帯電話から片時も目を離さない。それが自分を守る護符かなにかのようにじっとみつめて、ただただうどんを啜っている。
なんだか居たたまれない気持ちになった。

高校時代、学園ヒエラルキーの中ではクラスの「一軍」に憧れながらも、たまに代打要員としてベンチ入りする程度のポジションだった僕は、特にトラブルもなくそれなりに楽しく学生生活を過ごせた方だと思う。しかし振り返ってみれば、そこには自分がまるでバラエティー番組のひな壇にいるかのような狂騒と軽い緊張感があったことも確かだ。

この物語に『桐島』は登場しない。
男子バレー部のキャプテンで、スタープレイヤーの桐島の栄光と挫折を描いた一冊の本がきっとどこかに存在して、この物語はそのスピンオフだ。
でもいまの高校生達にとって、いやかつて高校生であった人達にとって、この「外伝」の方が圧倒的にリアルだ。

「外伝」の主人公達の「物語」は、まだ始まってすらもいない。
それぞれのラストに物語の萌芽が見えるだけだ。
それがいい。その萌芽に胸が熱くなる。

レビュー投稿日
2013年1月14日
読了日
2013年1月14日
本棚登録日
2013年1月14日
18
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『桐島、部活やめるってよ』のレビューへのコメント

まろんさん (2013年1月14日)

kwosaさん、こんにちは。

このまま解説として、本に掲載してほしくなるような、素晴らしいレビューに感動しました。
校内ヒエラルキーのてっぺんに君臨する桐嶋くんを取り巻く
「その他おおぜい」と見られがちな、ひとりひとりの高校生の物語を
すぐにでも読んでみたくてたまらなくなりました。
それと同じくらい、うどん屋さんでkwosaさんの隣に座った女の子の物語を
kwosaさんが書いてくださったらいいのになぁ、と思いました(*'-')フフ♪

kwosaさん (2013年1月15日)

まろんさん、コメントありがとうございます。

なんだか最大級の讃辞を頂いてしまって恐縮しております。
最近はいかにもフィクションといった荒唐無稽な娯楽作品が好みになってきているのですが、
やっぱり凄い「物語」には吸引力があり、どうしても引きつけられてしまいます。
これが文学の力なのでしょうね。
読んでいる途中は胸の奥がずっとひりひりしていました。
まろんさんはこの本を読んで、どうお感じになるでしょうか。

akg333さん (2013年1月23日)

コメント・フォローありがとうございます。
あのコメントをみてますます石田衣良が嫌いになりました。
帯に採用した編集者にさえ悪意が湧いたほどです。

この作品の、誰でも経験したことのあるスクールカーストという「内輪ネタ」が扱い巧く描写した点に、皆さんくすぐられるのでしょうね。

自分もkwosaさんのレビューはぐっときました。
女子高校生の世界の残酷さたるや・・・。

映画版は大変素晴らしい出来になっておりそっちのほうが好みです。
映画部の前田を神木隆之介が演じているのですが、彼に感情移入せざるを得ないのです。
ぜひ、観賞することをおすすめします。

kwosaさん (2013年1月23日)

agk333さん

コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

石田衣良さん。
初期の『池袋ウエストゲートパーク』は好きだったのですが、最近はどうなのでしょうか。

僕がうどん屋で見た女子高生も、決して「いじめ」とか仲が悪いとかそういうのではないでしょうが、微妙な距離感とか空気感ってありますよね。

映画版は評判いいですね。
吉田大八監督の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が良かったのと、神木隆之介や橋本愛らのキャスティングの素晴らしさに期待できます。
これは観てみないといけませんね。

しをん。さん (2013年1月23日)

フォローありがとうございます(^^♪
紫苑(しおん)です。

実は、kwosaさんのレビューに引き込まれて、今読んでいる最中です♪

映画化もされていて、何となく「桐島は登場しない。」みたいなことを神木隆之介さんが仰っていて「えっ?」と、なったのですが本当に出てこないのですね。。

kwosaさんの女子高生のお話。
ヒシヒシと分かります。
やっぱり、知らない女の子同士でも、ある程度の距離を取りたいという気持ちがわき出て…。
難しい年頃ですかね?

kwosaさん (2013年1月23日)

紫苑さん

コメントありがとうございます。

レビューを読んで本に興味を持って頂けるとは、なんて嬉しいことでしょう。
僕もブクログを始めてからは、かなりみなさんの影響を受けています。
紫苑さんの本棚もまめに拝見させてもらいますので、これからもよろしくお願いします。

男子には表面的にしかとらえられないことも女子には分かる。また、その逆もあるかも知れませんね。
いろいろ難しいですね。

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