スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

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本棚登録 : 1808
レビュー : 195
制作 : 和田 誠  伊藤典夫 
kwosaさん 小説(海外)   読み終わった 

トラファマドール星から贈られた新しい聖書。
あるいはSFの形を借りた極上の文学。

時間を超越する能力を得た(といっても任意に飛ぶことはできないが)ビリー・ピルグリムは、子供時代から第二次世界大戦、そして富豪となって成功を収めた晩年までを幾度も往来する。
その人生の途中異星人に誘拐され、三次元に生きる人間には到底観ることのできない世界を体感するのだが......

特殊能力を手に入れた男と異星人のコンタクト。
その数奇な運命。
スラップスティックでエキセントリックで変なSF。
でも、強烈な戦争体験により徐々に精神が狂気に蝕まれていく男の手記とも読める。

『スローターハウス5』には、戦争を始めとする人間のありとあらゆる愚行が描かれている。
それなのに(それだからこそ)、それらの行為は笑っちゃうくらい滑稽で、そしてやっぱりどこか切ない。

著者カート・ヴォネガット・ジュニアは、実際に第二次世界大戦中にドレスデン無差別爆撃を被害者の側から体験したという。
戦争を知らない世代の僕が、戦争について知ったような口を利くのはまことに不遜ではあるが、著者はこの「変なSF」という形態でなければ自身の体験を語れなかったのだろうなと思った。

ありとあらゆる人間の、生物の、物質の「死のイメージ」のあとに挿入される「そういうものだ(So it goes.)」という言葉。
諦念なのか達観なのか僕にはわからない。

幅、奥行き、高さに加えて、時間の軸も有する四次元の住人トラルファマドール星人にとって地球人は、赤ん坊から老人までの人生がひと連なりになったヤスデのように見えるらしい。
おそらく、僕はそのヤスデの足の節々で『スローターハウス5』を幾度も読み返すことになるだろう。そしてその時々で読み方、印象が変わってくるのかもしれない。
先頭部分、一番前足でこの本を読んだ時、果たして「そういうものだ」と言えるのだろうか。

この物語がどんな話なのかということは、三次元の住人である僕にはまったく説明ができない。説明する能力がない。でも、読めば確かにテレパシーのようにメッセージが届くのだ。

物語半ば、ビリー・ピルグリムが時間を遡る時に一瞬観る、逆回しの戦争映画の荘厳な美しさに涙が出そうになる。あれほど痛烈な批判はあるだろうか。

戦争の話ばかりしてしまったが、肩に力を入れて読む必要はない。本当にただただ面白い小説なのだ。

重いテーマを正面切って書くのも、それはそれで素晴らしいと思う。
でもはにかみながら、照れ笑いしながら、時には悪態をつきながら軽々と描くのってなんてかっこいいんだ。
著者近影までなんだかとぼけたこの小父さんの小説は、とても信用できる。

奇しくも読了日はエイプリルフール。
この日につく嘘は決してひとをがっかりさせる物であってはならないときく。
虚構の中の、大粒ダイヤのように(あるいは入れ歯の金具のように)輝く真実。
カート・ヴォネガット小父さん、最高に素敵な「ほら話」をありがとう。

レビュー投稿日
2014年4月2日
読了日
2014年4月1日
本棚登録日
2014年4月1日
15
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