夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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レビュー : 273
著者 :
kwosaさん ミステリ(国内)   読み終わった 

これは「円紫さんシリーズ」ではなく「円紫さんと『私』シリーズ」であることを再認識。
ミステリであると同時に「私」の成長物語でもあるんだなぁ。
『夜の蟬』以降も『秋の花』『六の宮の姫君』『朝霧』と、デビュー作の『空飛ぶ馬』を含めれば全五作ある。
朝ドラのヒロインの成長を見守るように、いや大河ドラマを観るかのように、この「私」の行く末を父親のような気持ちでやきもきしながらこれからも追いかけていくんだなぁ。

子供の頃は「おばけ」が怖くて怖くてしょうがなかったが、大人になってからある日を境にぱったりと怖くなくなった。
特になにがあったというわけでもないが、人間はいずれ必ず死ぬものだと、急に「死」を悟った、受け入れたのだ。
おばけや幽霊への恐怖、畏怖というものは、すなわち人間の「死」に対する不安や恐れであると僕は思っている。
かくいう僕も、小学校低学年のときに人間は必ず死ぬとはたと気づいて毎晩泣いていた。そして「おばけ」が怖くてしょうがなかった。
同じく「必ず死ぬ」とわかったのに、幼い頃は恐れおののき、大人になってからは「まあ、しょうがない」と諦念に至るのだから不思議だ。

だがしかし、最近「おばけ」がまた少し怖くなってきた。
おばけや幽霊の常套句といえば「うらめしや」である。
死んでまで他人や現世に恨みや執着があるのだ。
ましてや生きている人間のその感情は如何ばかりのものか。
恐ろしいのは「死」ではなく、むしろこの世に生きる人間の負の感情だったのだと今更ながらに気づく。

『朧夜の底』
存在が不確定で見えないけれども、それでも「私」がエレベーターに乗れなくなる気持ちはわかる。
ブクログユーザーのみなさんにも共感する方はきっといるはずだ。

『六月の花嫁』
ミステリの仕掛けに満ちた一品。
「女王」の消失に端を発する連続殺人事件のような趣き。
もちろん殺人事件が起こるはずもなく、誰一人として死んでいないが、種が明かされてみればその手のミステリに通ずるトリックと、青春のある季節の物語を融合させた構成に感嘆。
しかも外枠にさらに円紫さんの謎解きが加わるという、入れ子構造の贅沢な作り。
謎解きの面白さがあり、尚かつ読ませる。

『夜の蟬』
とても詩的なタイトル。
そして、その意味するところの郷愁を誘うエピソード。
ミステリの謎解きを通して垣間みる知られざる素顔と一つの成長。
成長したのはけっして「私」だけではない。

シリーズ二作目ではあるが、登場する個々のキャラクターがぐっと大人になった巻だった。
それぞれが皆まっすぐで眩しくて、少し面映いような、それでもそっと見守りたくなるような、そんなエピソードの三篇だった。
さあ、いよいよ『秋の花』だ。

レビュー投稿日
2013年8月7日
読了日
2013年8月4日
本棚登録日
2013年8月4日
11
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『夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』のレビューへのコメント

まろんさん (2013年8月12日)

kwosaさん!

大好きなこのシリーズを、ちゃんと続けて読んでくださってありがとうございます!
そして、表題作『夜の蝉』の余韻をやわらかくとどめて
「おばけ」の話題から始めるだなんて、なんと趣のあるレビューでしょう!

他意はなかったとか、ちょっとした気まぐれで・・・
なんて言い訳しながら振り撒かれる人間の負の感情。
その背筋がヒヤリとするような恐ろしさを
夜の蝉のエピソードで描き出される姉妹の理屈を超えた温かい結びつきで
ふわりと包み込んでしまう北村さんの筆遣い、さすがですよね!

この2作目では、清潔で、線の細い少年のようなイメージの「私」が
華やかな姉に抱くコンプレックスが男性とは思えないリアルさで描かれていただけに
最後に姉が打ち明ける夜の蝉のエピソードに、「私」と一緒に心がほどけて、救われる思いがしたものです。
「私」、姉、正ちゃん、江美ちゃん、と、女性たちそれぞれが
さらに魅力的に描かれていたのもうれしくて。

そして、さあ、いよいよ『秋の花』。
私がいちばん好きなこの3作目を、kwosaさんはどう読まれるのでしょう。
大好きな真理子を、kwosaさんも好きになってくださるでしょうか。
北村さんの新作を待ち構えているときと同じくらい、
楽しみでドキドキワクワクしています。

kwosaさん (2013年8月13日)

まろんさん!

花丸とコメントをありがとうございます。

この「円紫さんと私シリーズ」
本当に連続ドラマのようですね。
「私」とそれを取り巻く人々の日々の暮しと事件、そして少しずつの成長がなんとも瑞々しく描かれていて。
もちろんミステリ部分もしっかりとしているのですが、それ以上に彼女たちのこれからが気になって仕方ありません。

北村さんは女性の方からみてもリアルに女性を描いているんですね。
なかなか女心がわからない野暮天の僕としては、すごいの一言です。

本筋からは外れますが、最近になってようやくルバーブを知りました。
洋菓子店で「苺とルバーブのジャム」というものをみつけて、「こんなものがあるんだなぁ」と買ったところで、この『夜の蟬』
文学はもちろん、落語を始めとする古典芸能、チェスや紅茶などの英国文化、その他さまざまな幅広い教養に裏打ちされた洒落た世界が垣間みられるのも、このシリーズの魅力ですね。

次はいよいよ、まろんさんおすすめの『秋の花』
とても楽しみです。
いつも新しい世界に誘ってくださってありがとうございます。

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