現代を舞台に職業探偵を書こうとすると、どうしてもマンガ的劇画的になりがちだが、この『犬はどこだ』はリアルと虚構のバランスが絶妙だ。そして田舎や中途半端な地方都市を描かせたら抜群にうまいなぁ、米澤さん。
病気退職で都落ちしてきた元銀行員が地元でペット捜しの調査事務所を開く。開業二日で依頼は立て続けに2件。しかし『孫捜し』と『古文書の解読』という共に当初の予定を逸脱した案件に、困惑しながらも調査を始めるのだが...
役場に勤める旧友が、じいさん達の苦情処理も兼ねて主人公の事務所に半ば押し付ける形で仕事を廻してくる設定が面白い。この役場の窓口が探偵と依頼人をつなぐパイプ役になっているのだ。そして小説や映画の世界の『探偵』に憧れるフリーターの後輩が臨時職員として加わり物語が始まる。
心に瑕を負った主人公が事件に関わることによって本来の自分を取り戻していくというハードボイルドの定石を踏まえつつ、一見して脱力のストーリーが次第に不気味な様相を呈して、しかもミステリ的なツイストが幾重にも加わるという贅沢な作品。それを都会の路地裏や薄暗いバーカウンターなど出さずにやってのけるのが憎い。
ラストに震える。
『犬はどこだ』というタイトルも巧い。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ミステリ(国内)
- 感想投稿日 : 2012年8月29日
- 読了日 : 2012年8月7日
- 本棚登録日 : 2012年8月7日
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