戸村飯店 青春100連発 (文春文庫 せ 8-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年1月4日発売)
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瀬尾まいこを読みはじめたのはわりと最近です。映画化された『幸福な食卓』(2006)と『天国はまだ遠く』(2008)はDVD化されてからすぐに観て、どちらも結構好きだったのに、なぜか原作には手が伸びませんでした。しかし、600頁超えの分厚い本に疲れていたころ、300頁を切る厚さ(薄さ)に惹かれて『幸福な食卓』を購入。映画を観て結末は知っていたはずなのに、不幸のどん底に突き落とされる結末に泣かされました。その後読んだ『図書館の神様』、『おしまいのデート』など、いずれも胸キュンキュン。

今回、タイトルに惹かれて購入したのが『戸村飯店 青春100連発』。4年以上前に文庫化されていたとは知らなんだ。不覚。大阪出身の国語教師、瀬尾まいこのがっつり大阪弁の本はとても楽しい。がっつりだけど、木下半太とはちがって品があるのです(笑)。

大阪(住之江辺りらしい)の超庶民的中華料理店、戸村飯店。年子の息子がふたり、兄はヘイスケ、弟はコウスケ。兄弟とは思えないほど見た目がちがう。イケメンで勉強もスポーツもできるヘイスケは昔からモテモテ。対するコウスケはゴツゴツした顔でボケだけは上手い。幼いころから父親は料理の真似事を息子たちにさせたがったけど、器用なはずのヘイスケが包丁で指を切り、なぜだかコウスケが店を手伝うことに。コウスケは、ヘイスケがわざと指を切ったのだと確信しています。高校3年生のヘイスケは、卒業したらとっとと東京へ出て行くと言う。店を継ぐ気なんてさらさらない様子だから、コウスケは自分が店を継がざるを得ないと思っています。けれどそれが嫌なわけではないし、ほかに進路の希望があるわけでもなし。

こんなふたりが章ごとにかわりばんこで語る構成。折り合いの悪かった兄弟が、大阪と東京で自分を見つめ直す時間は、関西人ならばまず間違いなく笑えます。オチのない話をすれば怒られ、吉本新喜劇を見るのは必須。巨人ファンだとでも言おうものなら「関西人の風上にも置けんやつ」と罵られ。東京でヘイスケがバイトをするカフェの料理の話もちょっと面白い。戸村飯店の客たちがチャーハンや餃子をかっくらう姿を「美味しさ以上のあたりまえのものがある」という話も。

コウスケは兄のことを要領のいい、すかした奴と思っているけれど、ヘイスケは常連客の笑いを取るコウスケのことを羨ましく思っています。小学生だったヘイスケがこっそり吉本のギャグを練習するくだりは切ない。おとなになってそれがやっと報われたとき、読んでいる私も思わずニッコリ。

吉本新喜劇のすばらしいところ。何年も前のギャグが今でも笑える。戸村飯店に集まる人のすばらしいところ。どれだけ勝手して離れていても昔のまま迎えてくれる。

お気に入りの本になりました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 既読(2015年〜2010年)
感想投稿日 : 2017年4月25日
読了日 : 2017年4月25日
本棚登録日 : 2017年4月25日

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