グリム童話: 子どもに聞かせてよいか (ちくま学芸文庫 ノ 2-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (1993年12月1日発売)
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5

【要約】
「子どもたちが屠殺ごっこをした話」
・男の子 肉屋・コック・豚 / 女の子 コック・コックの手伝い
・肉屋は打ち合わせたとおり、豚によって行き、その子を引き倒して、喉を切り開きました。コックの手伝いが、血をうつわに受けました。
・大人たちは驚いて、「片手にりんごを持ち、もう一方の手に金貨を持ち、両手を子どもの前に差し出して、りんごを取ったら無罪、金貨を取ったら有罪」としたが、子どもたちはにこにこしながらりんごを受け取ったので、何の罰も受けませんでした。

どんなに残酷な要素を用いても、グリムの童話にはバランスがある。害が加えられると、その害は必ず回復される。

ドイツ語の「メルヘン」は、①「民間メルヘン」(文字を持たない人々の口から口へと伝えられてきたもの)と、②「創作メルヘン」(個々の作家が「民間メルヘン」の語り口やモチーフを受け継ぎ自分の考えに従って作り出したもの)とを合わせたもの。

昔話の分類
 1)動物昔話
 2)本格昔話
 3)笑話と逸話
 4)形式譚
 5)どれにも分類できない話

本格昔話の分類
 A)魔法の話
 B)宗教的な話
 C)短編小説風な話
 D)愚かな悪魔の話

魔法昔話の分類
 超自然的な敵
 超自然的なまたは魔法をかけられた夫(妻)またはその他の近親者
 超自然的な課題
 超自然的な援助者
 超自然的な品物
 超自然的な能力または知識
 その他の超自然的な話

昔話の構造(ウラジーミル・プロップ)
1)昔話の恒常的な不変の要素は、登場人物の機能である。その機能を誰が、どういう方法で行うかということは、問題でない。機能が昔話の本質的な構成要素である。
2)機能の数は、魔法昔話では限られている。
3)機能の順序は常に同一である。
4)あらゆる魔法昔話は、その構造からいうと、たった一つのタイプをなしている。

図式化
<加害>
<仲介・つなぎの段階>
<対抗開始>
<出立>
<贈与者の第一機能>
<主人公の反応>
<呪具の贈与・獲得>
<二つの国の間の空間移動>
(<戦い><難題> →<標づけ> →<勝利><解決>)
<不幸・欠如の解消>
<帰還>
<追跡>
<救助>
<気づかれざる到着>
<不当な要求>
<発見・認知>
<正体露見>
<変身>
<処罰>
<結婚>

・どんなに残酷なことも、あまり本当らしく書かれていない。
・昔話に出てくる人物は、みな人間離れしている。
・昔話では、今あることと前にあったことが、関連のないこととして描かれている(孤立性)。

・フロイトは個人の無意識に目を向け、その底には性的コンプレックスがあると考えた


・ユングは集団的な無意識に目を向け、それは人類の原体験から得られたもので常に各個人の無意識の中に保存されていると考えた(普遍的無意識・元型)。

・ある年頃の子どもの夢には、「親に捨てられた」、「親に置き去りにされた」、「人にさらわれた」ということがよく出てくる(大きくなりたいという気持ちと、大きくなりたくないという気持ちが相争っている)
・産褥にあるお母さんの夢には、「前に生まれた子がいなくなった」、「死んだ」、「前に生まれた子を殺した」という夢をよくみる

昔話は子どもの心を重く圧迫しているものについて語っており、その心理的困難を解決する手本を示している。

近世初期には結婚生活は離婚より死によってとぎれるほうが多かった。
→まま母によるまま子いじめが現実に多かった。

人肉を食う習慣は原始民族の間に広く行われていた(空腹を満たすためではなく、ある動物や人間の心臓や肝臓を、その力と勢力とを獲得するために食った)。

「骨からの復活」という考え方 ゲルマン人・シベリアの狩猟民族 →キリスト教化

親の貧しさから働いている子どもが登場する(封建的な性格)

フロイト 幸福な人間は決して空想しない、過去・現在・未来は一筋の願望の糸でつながっている

ディーター・リヒター、ヨハネス・メルケル(史的唯物論)
・社会的抑圧
・空想活動の階級的・歴史的な内容
・空想の多層的な社会機能(惨めな生活環境に対する実践的批判)

昔話と伝説の相違
・昔話 
文学的要素
自分の中にしっかり根を下ろしひとりで花を咲かせ実を結ぶことができる
社会環境を変わるものとして描いている
主人公はたちまちこの世界を出て、危険と脅しに満ちた道を行く
最終的には幸せになる
今ある支配状況の束縛を破るのに役立つ(被支配者の側)


・伝説 
歴史的要素
 場所・歴史上の人物などよく知られたものと結びついている
社会環境を変わるものとして描いている
 よく知っている世界に外から得体のしれない力が侵入してきて、破壊的な作用を及ぼす
 主人公は否応なく災いに巻き込まれ、打ち負かされる
 今ある支配状況を固めるのに役立つ(支配者の側)

「ヘンゼルとグレーテル」
二つの犯罪 飢え死にを目的とした小児遺棄(失敗)と強盗殺人にかかわる青少年犯罪(成功)

魔女(村のアウトサイダー) ヘンゼルとグレーテルは魔女を殺し、財産を奪う

ナチスのユダヤ人迫害に通ずる「前ファシズム的な迫害物語」(『だれが、いばら姫を起こしたのか』)

グリム童話の語り手は、実際はフランス系だったが、グリムが自分の文学的な天分に従って編集したためドイツ的な要素が見られるようになった

・伝説
 救済の課題はやさしそうにみえるが失敗に終わる
 伝説の基本的な形は、人間と超自然的存在が緊張した状態の中で出会い、人間が禁止・命令・取り決めなどに背いてマイナスの結果を引き受ける
 伝説を成立させる精神の働きは、人生を未解決なもの、悲劇的なものとして捉えようとする人間の心の傾き(意志と本能) →あきらめの態度


・昔話
 課題はひどく難しそうだが結局成功する
 人間のレベルを超えた神話的・英雄的な高みから人生を克服しようとする人間の心の傾き →あこがれの態度

聖者の認定には刑事裁判を思い起こさせるものがある
(徳の実行を奇跡によって証明する)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ■文学・人文(一般)
感想投稿日 : 2014年7月23日
読了日 : 2014年7月23日
本棚登録日 : 2014年7月9日

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