虚航船団

著者 :
  • 新潮社 (1984年5月1日発売)
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本棚登録 : 148
感想 : 13
5

なんというか、やっぱり「怪作!」としか言いようがない。

第一章は文具船の乗員群像。

   "まずコンパスが登場する。彼は気が狂っていた。"

いきなりですよ。機能についての記述はあっても容貌についての描写は少なく、頭の中で本来の形態と擬人化された容貌の画像が揺れます。 読むにつれ、これは映像化無理やなあと強く思った文房具の擬人化。しかも(ほぼ)全員狂ってる。 人間じゃないし、そんなもん感情移入できない小説なんか読めたもんじゃなかろうがと言われるかもしれないけど、私は本気で面白かった。
 
 
第二章は小惑星クォールの千年史です。住民は十種の鼬族。 共食いあり蛮行ありで血みどろ。 人間の歴史をコンパクトに、当然歪みを持ってなぞっています。 歴史に疎い私でもこれはアレだなと分かるエピソードや人物がちりばめられてて、その歪み方も含め面白かったのですが、どうもこの章で挫折する方が多かったらしい。 だけど、一章でひたすら個々に降りていった話が、ここでは英雄や政敵、紛争などがちりばめられつつ大きな流れの記述になる、このダイナミズムの落差も面白いと思うんだけど。

「辛かったらこの章はすっとばしてもよい」とおっしゃるブロガーさんもいるくらいですが、それはあまりにももったいなすぎる。 推理小説で事件を読んだら真ん中すっとばして終章の「さてみなさんこの中に犯人が」だけ読むようなものです。
 
 
第三章。
惑星クォールへの侵攻。 途中で主体が入れ替わる文章には第一章で馴れてますが、それだけじゃなく、空間も時間も飛びます。 飛びまくります。 カットバックの多い映画みたいに。 登場人物(文具と鼬ですが)すごく多いのに。
 
迷走の程度がどんどん高くなり、ああ、こんな風に終わってしまうのだろうか。コンパスはどうなったのだろう。 と、本気で不安を感じましたが、みごとに静かな着地です。
最後の1行はこの奇怪な物語を物語として終わらせるに相応しい言葉だと思いました。 余韻が深い。


参考までに。「もえ絵で読む虚構船団」というページがあります。おもしろい。https://www.pixiv.net/artworks/73965509

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年11月27日
読了日 : 2016年9月14日
本棚登録日 : 2019年11月27日

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