日曜日のアイスが溶けるまで (小学館文庫 し 10-1)

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  • 小学館 (2010年7月6日発売)
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“なんだろう?いま私は、何を思い出そうとしてるんだろう?
テレビの空は、京子の部屋の窓の外と同じ雨模様だった。画面に映ってはいないけれども、あのバラ園の、バラの花びらにあたる雫を目にした記憶がありありと浮かんだ。あのバラの、すぐそばを走る細い脚。逃げていた?それとも、誰かを追っていた?……かよ。……って、言ったでしょう!話し声、はしゃぐ自分、何もおそれずにときめく自分――そして。
今日だけだよ。どうせみんな二度と会わないんだから。
つぶやいて笑った、白いセーターの少年。
大人びた言葉、ふっくらした唇、少し生意気そうな鼻。
ああ。そうだ。思い出すと、忘れていたことが悔やまれるほどの甘い気持ち、けれども忘れていたゆえにつよく熱い気持ちが、胸から喉まで締めつける。
あの子。
私。
みんな。
私……この場所に、競技場に、小さいころ一度だけ行ったことがある。”

ああ、清水さんらしいなっていう。
昔の忘れていた記憶を思い出すところから始まる。
今回は、ちょっと怖い。
怖いというか、精神的に病んでいる感じ。
妄想に取り付かれているのか、妄想に酔いすぎているのか。
白いセーターの少年は本物か妄想か。それとも。

“「わかる?」
「うん」
「なら、もう少しで、思い出せるよ」
「思い出せる……」
どこかで鋭く、何かがひび割れる音がした。アイス君の言う「何者か」が、悲鳴をあげているような気がした。
「思い出せる」
心のなかで、この数週間の、楽しかった甘い部分だけを反芻した。ずっと二人で、ごっこ遊びをして、なんの不安も心配もなかった。アイス君の目が、自分と同じ物語を見ているのがとても嬉しかった。
ピシッ、ピシッとひびの深くなる音がした。目の前に迫る映像が、暗く、途切れがちになる。
この数週間……私は解放されていた。ずっと押し込めていた私の心が、やっと新鮮な空気に触れて、花開いて躍るようだった。お人形で遊んで、ホットケーキを食べて、折り紙をして児童書を読んで。
「思い出した」
たくさんのことを、思い出していた。心に積んだ石の下に沈めた、扉の向こうに閉ざして忘れた、たくさんのこと。
そして。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫本
感想投稿日 : 2010年7月13日
読了日 : -
本棚登録日 : 2010年7月13日

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