もうひとつの夏休み。 (ピュアフル文庫 ん 1-9 ピュアフル・アンソロジー)

著者 :
  • ジャイブ (2008年7月10日発売)
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感想 : 5
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“走って廊下に出ると、亜子が廊下の隅に腕を押さえて倒れていて、静かに声を殺して泣いていた。
振り返ると、優美が平然と自分の席に座って、隣の子とにこにこしゃべっているのが見えた。かたや亜子は廊下の隅っこで、薄い唇をかみ締めて泣いていた。声を殺して、もう限界が来たよって、言っているのがわかった。亜子が実際にそう言ってなくても、私には聞こえた。亜子は白い給食当番のエプロンを、ぎゅうっと力いっぱい握っていた。
亜子、もういいよ。苦しまなくていいよ。
そこから先の記憶はあいまいで、でもところどころが鮮明だ。勢いよく走っていって、私は優美に摑みかかった。驚いた顔をしている優美を立たせ、頭から牛乳をかけた。頭から顔にかけて、牛乳が落ちていく。優美が目をつぶった隙に、カレーの具を手摑みで顔に投げつけた。にんじんやジャガイモがぐちゃぐちゃになって飛び散った。近くにいる女の子は悲鳴を上げ、男子たちはおもしろがって見ていた。
亜子を元通りにしてよ、前の亜子のきれいな笑顔がなくなっちゃったじゃない。
優美が顔をぬぐっているうちに、フルーツヨーグルトもかけて、優美の机を倒し、優美も床に倒した。椅子を持ち上げて床に転んだ優美に投げつけようとしたとき、先生がうしろから私のことを押さえた。
黙っていればいい気になって。
私はなにも声にしなかったけれど、心の中では優美に汚い言葉をたくさん浴びせた。そして実際には給食をかけた。優美は汚い。とても汚い。
私も汚かった。食べ物の飛び散った制服をきて、椅子を頭の上に持ち上げていたのだから。”

草野たき「いつかふたりで」
前川麻子「プルートへようこそ」
藤堂 絆「田園の城」
沢村 鐵「アイム・ノット・イン・ラブ 〜劇団・北多摩モリブデッツの夏休み〜」
香坂 直「青田わたる風」
芦原すなお「東京シックスティーン」

切ないのは特になかったかな。
ちょっと胸が傷むような。

“「ここから、町が見渡せるだろ。国道のほうまでずっと。小さい町だよな。みんな小さくて、ここにあるとこだけがすべてじゃないのに、それに気づいていない。みんないじめられたくなくて、必死なんだってわかってたんだ。いじめられると、一人になるから、冷静になっちゃうんだよね。みんなの行動が手に取るようにわかる。みんな必死な目をしていじめてるんだ。いじめるほうも辛いんだろうなって思った」
「ほう、余裕だね。私は許せないけど......。亜子も、もしかしたらそう思っていたのかもしれない」”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫本
感想投稿日 : 2011年8月9日
読了日 : 2011年8月9日
本棚登録日 : 2011年8月9日

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