月と六ペンス (1959年) (新潮文庫)

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感想 : 15
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ゴーギャンの生涯に着想を得た小説、という触れ込みだけは幾度となく目にして来たが具体的にどのような話かまでは知らなかった。
主人公はゴーギャンを模した人物…のはずが、ひたすら別の、元々直接の友達でもない「僕」が彼と会ったときからのことを遡って思い返して語っていくというスタンスで話は進む。その人物に対する「僕」の感情の入れ方とか、描いた絵に対して少なくとも賞賛の感情は持っていないところ等はなんとなく芥川龍之介の「地獄変」に似ている。尤も、地獄変とは違い、語り手である「僕」はこの人物に興味を抱いているのだが。
この人物の、この社会で生きていれば間違いなく憎まれ嫌われるような性格。初めは強烈だと感じるが読み進めていくと、ただ生きる場所がこの世間の人と違うだけの、一人の人間だと気づく。タヒチに行ってからの姿は、元妻などヨーロッパにいる人には想像もつかないだろう。それを言えば、物語前半に出てくる世話好きの人物だって、好かれはするもののある意味世間とはずれている。芸術家の描写はこういうところが面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ラストがよい
感想投稿日 : 2017年10月17日
読了日 : 2006年12月29日
本棚登録日 : 2006年12月29日

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