折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

制作 : ケン・リュウ 
  • 早川書房 (2018年2月25日発売)
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感想 : 32
3

アンソロなので、長くなりがちなSFが短めのボリュームで13話も入っているのはありがたい。そして面白い。
SFは星新一始め少数しか読んだことがないので、現代中国SFというものが他のSFに比べてどういう面白さがあるのかについては語ることができない(中国という特殊な事情のある国で暮らす人が描くSFなので、色々邪推したくなる気持ちもわかるが、選者はそういう面を捨てて読んでほしいと書いている)。
ただ、SFは人間賛歌だなと思う。現代の私たちの暮らしには流通していないロボットや科学技術、宇宙人等といった要素を、現実世界に降ろしたときにどうなるかという想像をかなり綿密に行い描写する。しかし、どんなに未来を描こうと、どんな宇宙が舞台であろうと、そこで生きる人々は、まるで私たちと同じだ。出会ったばかりの女性の腰に手を回す男性に対しては「接触申請が必要です」なんてメッセージが女性から発せられてもいいはずなのに、ちゃんといい雰囲気になる(これは現実世界というより妄想世界だろうが)。どんな世界になっても、人間はなかなかすぐには変わらないし、人間だけが持っている力で生きるしかないという世界を描くのがSFなんだなと思った。
他のSFで言えば、星新一は人間の愚かさと愚かさゆえの愛しさを描いている感じがする。でもこれらのSF集では、ファンタジーもディストピアも様々な雰囲気の話があるが、同様の印象を持つものはなかった。時代的なものなのかもしれないが。

お気に入りの話は「折りたたみ北京」と「円」。
「折りたたみ北京」は見知らぬところで犠牲にする側と、犠牲にされる側の両方の世界を、犠牲にされる側で生活する60代の男性が行き来するというところ。行き着いた先の世界観はチープな感じなのに、入れ替わる描写がダイナミック。ありきたりな理由でもてあそんだ挙句男性を振るお金持ちのお嬢様というテンプレ展開と、瑞々しい若者ではなく人生の先のほうが短くなった独身男性が駆け巡るというところが、この世界観になんだかうまくマッチしている気がする。
「円」はもう、SFといったら未来でしょ!との先入観を見事にぶち壊してくれたいい作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: どんどん進む
感想投稿日 : 2025年2月4日
読了日 : 2025年2月4日
本棚登録日 : 2025年1月31日

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