「多言語環境に育つ子供」だったおとな(若者)たちへのインタビュー集。ありがちな英語偏重がなく、対象者たちの立ち位置もハーフ・在日外国人・在外日系人と多岐に渡っており、貴重な資料となっている。
興味深かったのは、インタビュー対象者が異口同音に「自分の言語能力は中途半端だ」と述べていることだ。それも、物理的に複数の国を「移動」して育った子供のみならず、ルーツこそ外国だが生まれてこのかた日本育ちで教育もすべて日本、両親の母語は第二言語として勉強させられたが続かず挫折…というような人でさえ、己の言語能力を、日本語も含めて「中途半端だ」と言うのである。
この理想の高さは、母国・母語・アイデンティティが当たり前にひとつところに収束する人間と、そうでない人間との意識の差なのかもしれない。しかし、そのあたりは本書がテーマを「言語」に絞っており、対象者の詳しいおいたちやアイデンティティにまで踏み込むものではないため、いまいち判然としない。これは私が著者の意図からはズレたところに興味を抱いたためではあるが、読後感はやや漠然としたものになった。
そうは言っても、さらっと読むだけでも単純に興味深い内容になっている。一度めはふんふんと楽しんで読み、時間を置いて二度・三度と振り返り、かみしめながら読んでみたい。そんな気持ちにさせられる、示唆に富んだ本である。
2012/11/30読了
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
社会
- 感想投稿日 : 2012年11月30日
- 読了日 : 2012年11月30日
- 本棚登録日 : 2012年11月30日
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